HOME > 藤村克裕雑記帳
  • 2018-04-03
  • 色の不思議あれこれ089
  • ▸VOCA展の上野公園
  • 夕方、ピンポーン、新聞の集金でーす、という時、その新聞社が後援している展覧会のチケットをオマケにくれることがある。そういえば「VOCA展」のチケットを貰っていた。あまり見物したことのない展覧会だったし、いい陽気だったので、家人と出かけることにした。
     JR上野駅でびっくりしてしまった。公園口を目指して、ホームから階段をのぼったら、隙間のない“人の壁”があった。駅員がロープを張ってホームからの人々を誘導している。“人の壁”どころのハナシではない。ロープの向こうは、奥の方の壁まで、人々が隙間なくびっしり詰まっている。改札を通り抜けて公園に出るために並んでいるのだ。す、すごい、こんなの見たことない。見たことすらないのだから、“体験”するのも初めてだ。もう、脱力してしまった。そういえば、「お花見」だったのだ。
     おとなしく最後尾について、少しずつ前に進み、改札を抜けて上野の森美術館の方へ向かった。と、隙間はうんと広くなった。嫌な予感がした。ひょっとすると、美術館はすいている? 
     すいていた。
     会場の入り口でもらったチラシによれば、「絵画や写真など平面美術の領域で高い将来性のある40才以下の作家を奨励する展覧会で、今年で25回目」だそうである。出品するのは「全国の美術館学芸員、ジャーナリスト、研究者などから推薦された」作家。5名の選考委員によって五つの賞が与えられる。今までのべ850名以上の作家が出品した、という、そういう展覧会だ。そういえば、私の知り合いの何人かもこの展覧会で賞を貰っている。
     今年は34名の作家の作品が展示されている、とのことで、確かにどれも力作だった。若い世代の動向の一端を知る意味でも貴重な機会だった。
     ところで、チラシにあった「平面美術」という言葉が一般的なのかどうか、不勉強で知らない。私は初めて知った。「VOCA賞」の碓水ゆい『our crazy red dots』は端切れの布のパッチワークと言って良い。加えて、それは上方の両端で壁にとめられてシワを生じている。つまり、平面ではなく明らかに立体である。こうした例は今回の展示作品だけからも、いくらでも挙げることができる。「平面」の概念が極めて緩やかに解釈されていることは明らかである。「平面美術」という言葉の発明が成功しているかどうか、ビミョーである。とはいえ、それをあげつらうつもりはない。
  • 林葵衣『声の遠近法』には思わず笑ってしまった。横長のパネル2枚を繋いでさらに横長にした「平面」に、下地を施し(平滑にはなっていない)、そこに口紅を塗った唇を当て声を出しながら左から右へ移動し口紅の痕跡をとどめたものだそうだ。これを「唇拓」と名付けている。「月の松」とか「階段を下りる猫」とか「大砲の音」とか「駅前の壊れた本屋」とかのメモがあるので、「ツー・キー・ノー・マー・ツー」とか声を出しながら“制作”している様子が想像できる。展示されているこの作品に至るまでの試行の様子も想像するとさらに面白い。ヤッホーーーとか、いててててとか、いろいろやってみたんだろうなあ、とか、口紅を選び出すのも大変だっただろうなあ、とか、失敗したらパネル作りから全部やり直すのかなあ、とか余計なことを考えさせられた。そのうち、アメニモマケズとか、般若心経とか、長いのをやっちゃうのかなあ、とか、別のものに唇を押し当てて「唇拓」を続けるのかなあ、とか、今後どう“展開”するか、気になってしまった。あ、余計なお世話だ。でも“追っかけ”をしたくなってしまった。
     平良優希の作品はパネル張りした麻紙に描画したあと、さらに寒冷紗を全面に貼って描画を続け完成に至ったものらしい。わざわざこうした手の込んだことを必要とするのは、繊細なある種の手ざわり感が必要だ、ということだろう。現れは違っていても、同様の繊細さは多くの作家たちに共通して保持されているように思えた。
     梅沢和木『すべてを死るのも』は似たような作品をどこかで見たことがある。同じ作者なのかどうか分からない。いかにもデジタル世代の黙示録という感じで、手も込んでいて、興味深く見た。どうやったらこういう風にできるのか見当もつかないくらい、手順が整っている。思い切りもいい。版の考え方? きっと頭がいいんだろうなあ。
     などと書いていくとキリがない。チケットをタダでもらったのに面白かった。
     外に出ると、すごい人出だった。桜は満開、空は絶妙な色合い。とってもきれい。誰もが嬉しそうだ。外人さんもたくさんいて記念撮影をしている。マーチン・パーならここで面白い写真を撮ってくれるんだろうけどなあ、などと人の流れに身をまかせ、ああ、春がきてしまった、と思うのだった。

    2018年3月27日 東京にて

当サイトに掲載されている個々の情報(文字、写真、イラスト等)は編集著作権物として著作権の対象となっています。無断で複製・転載することは、法律で禁止されております。