藤村克裕雑記帳

色の不思議あれこれ181 2020-07-30

久しぶりの東京都現代美術館

 長雨の合間、久しぶりに家人と東京都現代美術館に行った。「オラファー・エリアソン展」の体験コーナーには整理券が必要、整理券には人数制限がある、ということを家人が調べてくれていた。なので、菊川駅から懸命に歩いて、開館して間もない時間に飛び込んだ。無事に整理券をもらうと、12時15分からの回になりますので12時10分にきてください、と言う。え? そうなの? ま、体験すべきかどうかは、体験してから考えればいい。それは、ジェームス・タレルの「ガス・ワークス」だったかを体験しそこなっての教訓だ。あれは、今もって悔やまれる。ともかく、私どもの体験は12時15分から。それまで、どうしようか、と思ったが、まず、「常設展」に行った。
 近頃美術館を訪れると、なんだか「常設展」が面白い。
 美術館が自分のところで所蔵している作品を並べる「常設展」。選び方、並べ方、つまりひところ大流行した「編集」を意識することによって、同じ作品を異なった相貌で見せうる。学芸員の腕の見せ所だ。日頃の研究成果の発表の場でもあろう。
 先日は、竹橋・東京国立近代美術館で、開催中の大きな企画展「ペーター・ドイグ展」より、はるかに面白く「常設展」を見た。近美の「常設展」はこのごろ間違いなく面白い。期間を決めて展示が変化するのなら、厳密には「常設」ではないのだけど、それはまあいいのだ。いつも“発見”を促してくれる。
 年をとったせいだろうか。ドイグの作品は、確かに達者ではあるが、ここでも「編集」というか、元ネタが露わで、あそこまで露わなのはかえってユニークなのかもしれないけど、私のような老人にはほとんど何も感じるところがなかった。むしろ、イギリスなら、キタイとかホックニーを初期からずーっと見たい、と思った。あと、パオロツィとか。待っててもしょうがないけど。
 近美の「常設展」が、どう面白かったかを今ここに書こうとすれば、それはとても厄介なことになる。いずれ避けて通るわけにはいかなくなるだろう。その時は頑張るので、今回はパス。

で、東京都現代美術館の「常設展」である。なんでも、改修工事で休館していた三年間に所蔵された作品群を中心にした展示だという。お披露目を兼ねているわけだ。まず、オノサトトシノブ、次に末松正樹、そして福富太郎のコレクション、鈴木賢二、浜田知明、荒木高子、秀島由紀男、松江泰治、mamoru、オノ・ヨーコ、岡本信治郎、豊島康子、モニール・フォーマンファーマイアン、ブレンダ・ファハルド、シャジア・シカンダー、草間彌生、宮島達男、というラインナップ。特にオノサトトシノブと最近亡くなった岡本信治郎の作品展示が印象深かった(福富太郎のコレクションも興味深かったが、今回は触れない)。
 コロナ騒ぎが始まった頃、練馬美術館の「津田青楓展」で津田の画塾の生徒だったという若いオノサトの作品を見た。今回は、長崎の建物を描いた最初期の二点の油絵から始まって、「オノサト様式」が確立されるまでの流れを戦前、戦後とたどることができ、貴重な展示である。戦後の生活のためにオノサトが養鶏場を営んでいたことなどを含めて、全く知らなかった事や作品とその変遷を見ることができた。ある種の確信をオノサトが得たためだろうか、1958年の作品群での飛躍が実に面白い。
 岡本信治郎は、今回の常設展のポスターにも作品が取り上げられ、二つのスペースをたっぷり使った展示になっている。何年か前の「愛知トリエンナーレ」での力のこもった出品作群に彼の健在ぶりを確認し感動したことを思い出す。あの時の作品に重複があったかもしれないが、今回も圧倒されてしまった。とても面白い。面白いだけでなく、重い。システマチックに整えられているに違いない描法と戦争というテーマとが独特のリアリティで絡み合って迫ってくる。実にユニークである。ポスターを買って帰ろうと思って受付のお姉さんに尋ねると、ない、と言う。会期が終わったら貼ってあるのから一枚譲ってもらえないだろうか? と尋ねると、そんなことはいたしておりません、と言う。さらに食い下がろうか、と思ったが、やめた。現場の人にはなんの権限も与えられていないに決まっている。と、いって現代美術館の偉いさんに「お友達」がいるわけでもない。何枚か撮った写真で満足することにして、ポスターは諦めた。
 で、「オラファー・エリアソン展」。頑張って体験した作品を含めて、「感動」ということとか、タンノウということとは、ほとんど無縁の時間だった。が、時代遅れの爺さんがあれこれ言ったとして、それでどうにかなるものでもあるまい。“装置”のような作品群には、その仕掛けや仕組みにこそ着想や組み立ての工夫が凝らされているのだろうが、私の目はその解明までには至らず、ただただ、子供騙しのようにしか見えなかったのである。期待していた展覧会だったので、自分で自分の反応に驚いてしまった。確かに、氷河の“後退”の様子を示した写真群には驚かされたし、「サステナビリティの研究室」という展示などは面白く見たのだったが。
 そんなわけで、複雑な思いを抱きながら、はて、どうしたものか、と会場を出て遅れた昼食をとり、残り二つの展覧会をホントにざっとだけ見て帰ってきた。
 もう展覧会を掛け持ちするのは無理みたいである。途中からすっかり疲れ切ってしまった。コロナで出歩かなくなって、歩き方を忘れてしまったせいもある。やばいぞ。足に力が入らない。(2020年7月28日、東京にて)

「MOTコレクション いまーかつて 複数のパースペクティブ」
 ●会期:2020年6月2日(火)- 9月27日(日)
 ●休館日:月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日
 ●開館時間:10:00ー18:00(展示室入場は閉館30分前まで)
 ●観覧料:一般500円/ 大学生・専門学校生400円/高校生・65歳以上250円/ 中学生以下無料
公式HP:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/multiple-perspectives3/

「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」
 ●会期:6月9日(火)-9月27日(日)
 ●休館日:月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日
 ●開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
 ●一般 1,400 円/ 大学生・専門学校生・65 歳以上 1,000円/ 中高生 500円
/ 小学生以下無料(当面は団体受付無し)
 ●会場:東京都現代美術館
画像上:岡本信治郎《銀ヤンマ(東京全図考)》1983
画像下:岡本信治郎 左《銀ヤンマ》1983 右《銀ヤンマ(東京全図考)》部分1983

 

藤村克裕

立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。

藤村克裕 プロフィール

1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。

1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。

内外の賞を数々受賞。

元京都芸術大学教授。

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