62 藤村克裕雑記帳 | 逸品画材をとことん追求するサイト | 画材図鑑
藤村克裕雑記帳
藤村克裕

立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。

藤村克裕 プロフィール

1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。

1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。

内外の賞を数々受賞。

元京都芸術大学教授。

犬一匹に500万円!
2022-01-20
 パソコンを新調した。使い方が分からない。困る。
 で、今まで使っていたパソコンを使うことにした。新調した意味がないが、やっておかねばならないことがある。ワープロ機能で文章を打ち込んで一旦「保存」した。それをメール添付で送ろうとしたら、保存したはずの文章が消えている。行方を辿ろうとするが、見つからない。こう いうことをはじめ、奇妙な事態が頻発するようになったので、思い切って奮発してパソコンを新調したのだった。なのに、今度は新品のパソコンの使い方がよく分からない。驚くほど速く反応することだけは分かる。ともかく、消えた文章を“再現”して送らねばならない。
 そういうわけで、今朝は早い時間に目覚めたのである。
 が、寒いので布団でグズグズしているうちに二度寝して、結果、寝坊してしまった。
 家人が「ひえーっ!」と言っている。
「どうしたの?」と尋ねると、朝刊に挟まってくる広告の中の一枚を差し出した。
「犬探してます」「懸賞金 500万円」「100万円」とある。
 犬に・・・・、500万円って......。
 思わず、部屋の中を見回してみるが、その犬がこの部屋の中にいるわけがない。500万円分、ソンをした気持になるのが不思議だ。
 念のため、窓から外も見てみるが、左に一軒置いた隣の家をマンションにする工事の関係者がいるばかりで、犬はいない。今は基礎工事の真っ最中で、杭でも打ち込んでいるのだろうか、今日も、かなりの揺れに見舞われるだろう。地震と区別がつかないので少し困る。もう少し経つと、今度は右に一軒置いた隣の家もマンションにする工事を始めるらしい。実に落ち着かない。
 それにしても、犬に500万円、である。500万円が頭から離れない。500万円でセザンヌは買えないだろうが、セザンヌを見物するために世界中のどこにでも出かけることなどはできそうである。コロナという難儀な障害はあるが。
 「ああ、犬になりたい、と思ったが、犬になってどうする?と自問して、犬になっても500万円もらえるわけではないことに気がついた。そんなことを考えてしまう自分が実に情けなくなった。
 テレビをつけると、ヴェネツィアに住む人のペットの大型犬の話をやっている。犬の食費が月に4万円だか5万円だか必要だ、と言っている。犬づくし、金づくしの朝である。
 犬のことは早々に断ち切って、仕事場に移動した。
 今日こそは、ここに載せる文章も書かねばならない。随分サボってしまった。いつの間にか、 展覧会見物記のようになっている。この間、展覧会を見なかったのではない。「ボイス+パレルモ」(埼玉県立美術館)、「クリスチャン・マークレー」「久保田成子」(東京都現代美術館)、「ミニマル/コンセプチュアル」(DIC川村記念美術館)などを見た。どれもとても面白かった。しかし、文章にしてみようとすると、うまく書けなかった。チャレンジはしてみたのである。今日も上手く書ける気がしない。しないが、結果を気にせずはじめてみる。
 ボイスは、私が学生の時に一人旅したヨーロッパのあちこちでたくさん見た。パリで出くわした巨大な作品、床に厚くて大きな鉄板が何枚も何枚も隙間なく敷かれた上に大きなバッテリーがグリスをなすりつけられて三つ四つ等間隔で置かれ、壁に巨大な“壁掛けがフェルト製とゴム製、それぞれ垂れ下がっていたあの作品、あれにはびっくりした。ああういうものに比べると、タマキンには小ぶりの作品が並んでいた。学生時代から写真図版でしか知らなかったパフォーマンスの記録映像がいくつかあって、それを見て、ああ、こういうものだったのか、と何十年も経って知ることができた。幸いというべきか。
 パレルモは初めてまとめて見ることができた。作品写真図版より遥かに良い。当たり前か。とはいえ、その良さを言葉にしようとすると、もう降参である。歯が立たない。パレルモがこうしてやって来るのだから、次はイミ・クネーベルをお願いしたい。クネーベルは、栃木県立美術館 でやったことがある。私も見に行った。かっこよかったなあ。でも、これもそのかっこよさを言葉にしようとすると、私の力では無理なのが分かる。
 ボイスもパレルモもクネーベルも、東京では「かんらん舎」でしかみることができなかった。
「かんらん舎」は閉じてしまったけど、昨年、大谷さんの資料展を見ることができた。その展示 を企画・実施してくれた角田くんは未知の人だった。いろいろ話しているうちに、藤原 和通さん を知っている、というのでびっくりした。出会いというのは面白い。

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