222 藤村克裕雑記帳 | 逸品画材をとことん追求するサイト | 画材図鑑
藤村克裕雑記帳
藤村克裕

立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。

藤村克裕 プロフィール

1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。

1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。

内外の賞を数々受賞。

元京都芸術大学教授。

魔除けの展覧会・文化学園服飾博物館(2)
2016-03-18
日本の事例は、「守袋(まもりぶくろ)、「懸守(かけまもり)」、「守巾着(まもりきんちゃく)」から始めていた。護持仏や神仏の霊符を入れて首から下げたりする平安以降の習慣だというが、不覚にして知らなかった。「守巾着」などは歌麿や英泉の浮世絵にも登場していることを知らされて驚いた。次に、多くの裂(きれ)のパッチワークとも言える「切継ぎ(きりつぎ)」。裂を接ぐに際してひと針ごとの針目が集合していく、その針目の呪力に想いを込める。針目に呪力を込める例は、千人針を持ち出すまでもなく世界各地にあるようである。刺繍などもそういう意味で見ると見え方が違ってくるから面白い。
文様の出自について、一つ一つ書いていくとキリがなくなる。しかし、衣服の開口部、つまり襟、袖、裾や、自分では見えない背中に文様が施されるのはどの民族でも言えることのようだ。魔物が開口部から入らないようにするわけだ。あとは、コメカミ、耳や額、首のような急所。アクセサリーももともとは護符だったらしい。アクセサリーといえば、銀やトルコ石、宝貝(子安貝)、数珠玉、ビーズ、鏡片、硬貨、骨、牙の類い、琥珀や珊瑚を素材とするが、これらは衣服にも縫い付けられ、魔除けとなる。音の出るものも縫い付けられる。トルコ石の青は水に繋がる意味で遊牧民には貴重だし、唐辛子などの赤は魔除けの強いエネルギーを発する、という。
文様もまた、成長の早い大麻、長寿の象徴の亀、おめでたい宝船、勇ましい龍虎、激しい音と光の稲妻、破魔矢に通じる矢羽根、正三角形の連なる籠目、多産の犬、聖なる力の持ち主の女神、尖って成長の早い糸杉、力のある目、切り裂くナイフ、生命の象徴の生命の樹、音で邪気を払う鈴、目の力やくび蛇の背文に通じる菱形、トゲのあるアイヌのアイウシ文、シク文、渦巻きのモレウ文、中心が目としての意味を持つシクウレンモレウ文、強い虎の額の意味を持つ渦巻き文、花やムカデ、波の力を示す大波小波文、犬や強い動物の牙をも示す三角形(三角形はそれぞれの角度が必ず鋭角なのが大事だという)、勇敢さや強さを示す「首架」(頭蓋骨を架けた木)、神聖な動物の馬、輝く星、太陽を示す卍や丸みを帯びた菱形、頭が象・体が鳥の「サーン・ホン」、迷路化された菱形、子だくさんを意味するザクロ、蛇やヒルS字文、などなど。縞模様ではパストゥーロ『悪魔の布』を想起させられたし、実に面白い。魔除けはアクセサリーにとどまらず化粧にもつながるようだ。
また、こうした文様の呪力は家畜や住居にも及ぶ。
ほんの一部しか紹介できないけれど、ナイジェリア、ハウサ族のブブ=コートの刺繍による文様=ナイフと王様の太鼓の文様とのことだが、その緻密な刺繍によるダイナミックな文様はチラシにもなっていたが、強い印象を残した。  

ともかく、人間の不思議と向かい合うような濃密な展示で頭がくらくらしたのだった。また行きたいが、既に終わってしまった。次の機会を待ちたい。
(2月21日 東京にて)

魔除けの展覧会・文化学園服飾博物館(1)
2016-03-14
文化学園服飾博物館で12月17日から2月17日まで開催された展覧会、『AMULETS 魔除け 身にまとう祈るこころ』展が実に面白かった。例によって、見に行けたのが会期終了間際だったので、会期中にここで紹介できなかった。読んでいただいている皆さんにはまったく申し訳ない。
過日、東京・京橋の「LIXILギャラリー」で「背守り」の展覧会があって、それも強い印象を残してくれたが、この「魔除け」展もまた、日頃忘れ去っている大事なことを思い起こしてくれる素晴らしい展示だった。
文化学園は言わずと知れた服飾の様々を教える学校。学生たちのための参考事例を多数コレクションしており、それをもとにその都度テーマ設定して展覧会を構成し、学生たちだけでなく、一般にも紹介している。地味だがいつもとても面白い。
私のような者が「服飾」をいうのは、いかにもミスマッチだ。しかし、1980年頃だったか、ルドフスキーの『みっともない人体(からだ)』という本が評判になって、わたしも読んだ。そして、目を開かれた。服飾は奥深い。とはいえ、オシャレには相変わらず全く興味なく、家人がどこかのバーゲンで買ってきてくれたものを順番に身につけている。

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