37 藤村克裕雑記帳 | 逸品画材をとことん追求するサイト | 画材図鑑
藤村克裕雑記帳
藤村克裕

立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。

藤村克裕 プロフィール

1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。

1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。

内外の賞を数々受賞。

元京都芸術大学教授。

「小池照男のコスモロジー」AプログラムとBプログラムを見た日
2023-03-13
春が一気に押し寄せてきている。あまりに突然である。なすすべもない。  花粉が辛い。が、出かけることにした。3月12日(日)の午後である。
中央線国立駅に降り立って富士見通りを直進、徒歩15分、通りの左側にある「キノ・キュッへ(木野久兵衛)」。今日は昨年3月に亡くなった映画作家・小池照男さんの追悼上映会があるのだ。  
小池さんは(とか言っても面識も何もない)、私が最初に知った実験映画=個人映画と言われる“分野”の映画作家である。いつかもここに書いたかもしれないが、やはり映画作家の太田曜氏が教えてくれた(太田氏や黒川芳朱氏は昔からの知り合いなのだ)。というか、当時(と言ってももうかなり前になる、30年以上は経ってしまったかもしれないが)、ともかく当時、日本の実験映画のフィルムをフランスに持っていってフランスの各地で上映会をやるという活動を太田氏がやっていたのだが、その年にフランスに持っていく映画の検品を兼ねた試写をするというので、太田氏の家まで押しかけて見せてもらったのである。その時、私は映画は映画で面白いことをやっている人たちがいることを初めて知って、大変興味を持った。その中に、とっても印象的な作品があった。その作者が小池照男さんだったのである。
 その映画は、何が映っているのか全くわからない映画だった。おまけに、映像と一緒に音の何の音か分からないノイズが流れ続けた。試写してくれた太田氏は、「これは神戸のコイケさんという人の作品です。一コマ一コマを撮って作ったもので、そうした作り方をコマドリといいますが、アニメーションと言ってもいいかもしれません。音は電気掃除機の音だそうです」と説明してくれた。
 その日には、ついでに「スヌケ」とか「クロミ」とか「セッシュウ」とか「ヤオヤ」とかの業界語も少しだけ教えてくれた。それから、ペーター・クーベルカという太田氏の先生のことも教えてくれた。その先生には「スヌケ」と「クロミ」だけで作った映画がある、というので私はびっくりしてしまった。同じような映画を作った人がいるが(トニー・コンラッドという人だとあとで知った。つい先日その「フリッカー」をようやく見ることができたが、そのことをここに書いた記憶がある)、違った作品になっている、ということを太田氏は言った(どんなふうに違うのか、ますます興味が尽きない)。
 私は、コマドリ、と聞いた時、思わず「こまどり姉妹」を思い浮かべたが、そんなことはともかく、コイケさんは8㎜カメラを持って歩きながら時々立ち止まり、レンズを路面に向けて一コマずつシャッターを切っていって、フィルム一本撮り終わったら現像して、映写してみたら面白かったので、それをそのままこの作品にしたんだろう、面白いなあ、と勝手にカンチガイしてしまったのだった。そのまま30数年。

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