270 藤村克裕雑記帳 | 逸品画材をとことん追求するサイト | 画材図鑑
藤村克裕雑記帳
藤村克裕

立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。

藤村克裕 プロフィール

1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。

1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。

内外の賞を数々受賞。

元京都芸術大学教授。

冬の光(2)
2013-06-06
 冬の表日本は光がきれい、なんて書いて、バチが当たったのか、東京にもどっさり雪が降った。交通網はズタズタ、次の日になってもポイント故障で遅れが出るなど、かなりの影響があった。東京は雪に弱い。  
 いつになくしんとしている、と思いながら、朝起き出してカーテンを開けた時、窓の向こうが一面真っ白だと、大人だけの家でも思わず歓声が上がる。でも、今回は、次から次へと降ってくる大きな雪が、強い風で思いがけない方向へ流されているので、とてもじゃないけど、外に出る気にならなかった。祭日だったし。私は、ずっとこたつに入ってじっとしていた。
 家人が、食料の買い出しに行く、と言った。上を向いて歩くと空に吸い込まれそうな気がするからやってみるとよい、とか言って送り出した。ほどなく雪だらけで帰ってきて、空を見上げるなんてとんでもない、風が強くて目を開けていられないくらいだった、と叱られた。風のことをすっかり忘れていた。くわばら、くわばら、こたつが一番。
 夕方近くにやっと降り止んだので雪かきをした。拙宅は建物の前が直ちに道路なので、どこまで雪かきをすればよいのか、いつも迷う。昔は、道路の幅の半分よりすこし向こうまできちんと雪かきして、あとは向こうのウチの責任、でも、たまった雪は拙宅の側に積み上げる、そのくらいの“誠意”はあった。しかし、もう体力がない。出入り口の前だけにした。
 その雪も、日が経って、日陰の限られたところ以外はすでにあらかた消えてしまった。残った雪の形が面白い。そこから道に水になって溶け出して、跡が黒光りしている。アスファルトからのわずかばかりの乱反射を、流れた水が抑え込んでいるのだ。
 それで、冬の光はきれい、と感じるのはなぜか、という話である。ちゃんと理由があるはずなのだ。
 冬の空の太陽の高さは低い。夏は高い。地軸が傾いているからだ。小学生でも知っている。ということは、太陽から地上に届く光が通過してくる大気の厚みも、冬と夏とでは変化する、ということだ。
 大気の厚みは、地球の中心から見ればどこも一定であるが、地軸が傾いていることを念頭におけば、地上のある一点と太陽との間の大気の厚みということになると、冬は厚みが増していて、夏は厚みが少ないことになる。春と秋はちょうど真ん中だ。
 空気が見えないのと同じように、私たちが「空」と言っている大気も直接は見えない。光との相互関係で「空」は見えるようになる。
 晴れている時「空」が青いのは、短い波長の光が大気中に散乱するからだ、と本で読んだ。夕焼けや朝焼けの「空」が赤くなるのは、夕方や朝は太陽光が通過してこなければならない大気が昼間よりはるかに厚くなるので長い波長の太陽光が通りやすくなるからだ、とも聞いた。こんなことを考えると、夏と冬とでは太陽光が散乱してできる「空」の色の成分は異なっているのではないか、と思われる。それも含めて、夏と冬とでは地上に届く太陽光の成分比が異なっているのではないか。それが、冬の光がきれい、と感じさせているのではないか。
 そんなことを考えながら、手元の資料を調べてみたが、思うようなデーターに出くわさなかった。
冬の光(1)
2013-06-06
 冬真っ盛りである。
 毎日光がきれいだなあ、と思っていたら、裏日本・北日本ではひどいことになっていた。こうした想像力が欠けているのは、ちょっとまずい、と思う。
 以前、友人に会いに冬の福井市を訪れた時、降り始めた雪が、みるみるうちに積もって4~50センチになり、それでもまだ、どんどん降ってくるので、あせって、逃げるようにして東京まで帰ってきたことがある。皮靴の中がもちろんびしょびしょになったが、バスや列車が止まるわけでもなく、人々はふつうにたんたんとしていた。雪国の凄味を知った。
 私は北海道の帯広で生まれて育ったので、雪とはなじみがありそうに思われがちだが、そうでもない。雪は日高山脈で遮られるので、帯広にはあまり降らない。降ったとしても、いわゆるパウダースノーだ。風が吹けば、飛んで行ってしまう。雪よりも氷が問題なのだ。 あの福井でのように湿った重たい雪が帯広に降るのは春が近づいてきた証拠だ。
 東京にやってきて、はじめて雪が降った次の日のことはよく覚えている。なぜかというと、木の枝に積もったままの雪の姿が、熊谷守一の絵とおんなじで、びっくりしたからだ。それは、湿って重たい雪が作る形だった。その時、内地にやってきたんだ、と思った。
 じゃあ、寒さには強いよね、と言ってくる人がいる。とんでもない。北海道の人は、家の中にいてTシャツで冷えたビールを飲んでいる。外では完全装備だし、ヒーターを効かせた車を使う。冬は暖かいのである。だから、寒さには弱い。

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