立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
松本に行ってきた(3)
2014-06-23
帰路、思い立って、三谷龍二の「10㎝」に行ってみようと思った。道筋を考えていると、途中、松本城近くの松本城を模した形状の建物の古本屋に寄って行けることに気がついた。以前、その店で明治時代の小学校の美術の教科書を買ったことがある。それは私の宝物の一つになっている。ときどきそれを開いて様々なことを考える。そういえば、あの時、橋本雅邦が作った教科書を買いそびれた。高かったからだ。
立ち寄ったその古本屋は、書棚の前に無秩序にうずたかく本が積み上げられ、以前来た時と同じ迫力を醸し出している。ほんとに売っているのかなあ、という迫力だ。
棚の本の配置は以前とは変化していたので、
前に松本に来たときここに寄ったら、あの辺に昔の小学校の美術の教科書があったんですけど今もありますか?
とご主人に尋ねてみた。
「ありますよ。たしか、このへんだなあ。」
とご主人はやりかけの作業を放り出して本の山を崩し始めた。
「あのー、無理しなくていいですよ。」
と思わず私はビビッてしまった。
ご主人は私を無視するようにして、いささか乱暴に本の塊を移動し続け、
「ほら、あった。」
と何冊も取り出してくれた。ただの乱雑な本の山ではなかった、というわけだ。
敬意を表して一冊購入を決意すると、半額でいい、と言う。で、思わず二冊買ってしまった。クラフトフェアを見に来て、何一つ「クラフト」を買わず、なぜこうして明治時代の教科書を買っているのか? 苦笑しつつ小さな通りを「10㎝」に向かう。
立ち寄ったその古本屋は、書棚の前に無秩序にうずたかく本が積み上げられ、以前来た時と同じ迫力を醸し出している。ほんとに売っているのかなあ、という迫力だ。
棚の本の配置は以前とは変化していたので、
前に松本に来たときここに寄ったら、あの辺に昔の小学校の美術の教科書があったんですけど今もありますか?
とご主人に尋ねてみた。
「ありますよ。たしか、このへんだなあ。」
とご主人はやりかけの作業を放り出して本の山を崩し始めた。
「あのー、無理しなくていいですよ。」
と思わず私はビビッてしまった。
ご主人は私を無視するようにして、いささか乱暴に本の塊を移動し続け、
「ほら、あった。」
と何冊も取り出してくれた。ただの乱雑な本の山ではなかった、というわけだ。
敬意を表して一冊購入を決意すると、半額でいい、と言う。で、思わず二冊買ってしまった。クラフトフェアを見に来て、何一つ「クラフト」を買わず、なぜこうして明治時代の教科書を買っているのか? 苦笑しつつ小さな通りを「10㎝」に向かう。
松本に行ってきた(2)
2014-06-23
旧制松本高校といえば、私の世代には何と言っても北杜夫。高校の頃出た『どくとるマンボウ青春記』。あの口絵に掲げられた北杜夫の写真にはあこがれたなあ。ぼろぼろの学生服と帽子。…かっこよかったなあ。私もわざわざ学生服を汚し、帽子を痛めつけたものだ。下駄で登校したり。そんなことなど思い出しながら、気を取り直し、人混みへと突入を開始した。通路の両側にテントが立ち並び、商品が思い思いに配されている。左側だけに注目していけば、やがて戻り道になり、最後は両側の店を見ることができるはず。
まず目に留まったのが、「COW BOOKS」のトラック移動古本屋。東京・中目黒のお店は時々覗いたりするが、トラックははじめて見た。アメリカ帰りの松浦弥太郎さんは、確かトラックの古本屋から始めたはず。つい物色をはじめてしまう。細部まで配慮が行き届いたおしゃれなデザインのトラック、クラフトフェアに集まる人たちの嗜好を読み込んだ巧みな品ぞろえ。さすが、と思わせる。しかし、本は重い。何も買わずに進む。
次に目に留まったのが、麻や絹の素材から製品までを扱っているお店。ワークショップもやっているとの告知。テントも大きいし、“展示”も巧みなのが目に留まる理由になっていると思った。何種類かの繊維を購入。丸くまとめた形状がきれいだと思った。
次に目に留まったのは、アクセサリーを扱っているお店。商品が小さいから、それを確認しようと人垣ができている。並んでいる物がとても面白い。が、それなりのお値段なので購入は断念。
そんなこんなで、会場を一回りするだけで半日以上を費やした。出店しているのは、焼き物、ガラス、ジュエリー、木工、皮製品、織物、染物、金属工芸などなど。正直、玉石混合だ。
まず目に留まったのが、「COW BOOKS」のトラック移動古本屋。東京・中目黒のお店は時々覗いたりするが、トラックははじめて見た。アメリカ帰りの松浦弥太郎さんは、確かトラックの古本屋から始めたはず。つい物色をはじめてしまう。細部まで配慮が行き届いたおしゃれなデザインのトラック、クラフトフェアに集まる人たちの嗜好を読み込んだ巧みな品ぞろえ。さすが、と思わせる。しかし、本は重い。何も買わずに進む。
次に目に留まったのが、麻や絹の素材から製品までを扱っているお店。ワークショップもやっているとの告知。テントも大きいし、“展示”も巧みなのが目に留まる理由になっていると思った。何種類かの繊維を購入。丸くまとめた形状がきれいだと思った。
次に目に留まったのは、アクセサリーを扱っているお店。商品が小さいから、それを確認しようと人垣ができている。並んでいる物がとても面白い。が、それなりのお値段なので購入は断念。
そんなこんなで、会場を一回りするだけで半日以上を費やした。出店しているのは、焼き物、ガラス、ジュエリー、木工、皮製品、織物、染物、金属工芸などなど。正直、玉石混合だ。
松本に行ってきた(1)
2014-06-23
毎年5月の末に長野県松本市で「クラフトフェアまつもと」が開催される。今年で30回目、という事だ。いまや私のような者も知る催しになった。思い切って見物に行ってきた。
5月24日(土曜日)晴れ。朝、新宿駅で「スーパーあずさ5号」に乗り込んだ。松本までずっと満員。年配の女性たちのグループが目立つ。皆、楽しそうに喋っている。笑い声が絶えない。私は一人。
到着した松本駅のホーム、改札口、観光案内所、いずれもごった返して、ホテルが取れない、と途方に暮れている人もいる。私はかなり早い時期に宿の手配をしたが松本ではもう無理だった。といって、温泉に泊まれる身分でもない。だから私は岡谷市の駅前のビジネスホテルをとった。
観光案内所の人をかき分け、地図を手に入れ、フェアの会場までの行き方を尋ねると、あそこの階段を下りたところに係の人がいるのでその指示に従ってバスに乗ってください、と言う。なるほど、広場への階段下に係員らしきが複数忙しそうにしているのが確認できた。しかし、すでに、クラフトフェア目当てらしき人々が数多く通路にたむろし、バスを待っている。バスがひどく混み合うのは容易に予想できるので、私は徒歩でフェアの会場の「あがたの森公園」に向かうことに決めた。
「あがたの森通り」を一直線に進めば、いずれ会場に着く(はずだ)。歩き始めると、私と同じ徒歩の人たちが、通りのわずかな日かげの側に列をなしているのに気付く。午前10時過ぎというのにもう日差しが強い。暑い。私も日かげの列の一員になり、歩き始めた。30分弱。
5月24日(土曜日)晴れ。朝、新宿駅で「スーパーあずさ5号」に乗り込んだ。松本までずっと満員。年配の女性たちのグループが目立つ。皆、楽しそうに喋っている。笑い声が絶えない。私は一人。
到着した松本駅のホーム、改札口、観光案内所、いずれもごった返して、ホテルが取れない、と途方に暮れている人もいる。私はかなり早い時期に宿の手配をしたが松本ではもう無理だった。といって、温泉に泊まれる身分でもない。だから私は岡谷市の駅前のビジネスホテルをとった。
観光案内所の人をかき分け、地図を手に入れ、フェアの会場までの行き方を尋ねると、あそこの階段を下りたところに係の人がいるのでその指示に従ってバスに乗ってください、と言う。なるほど、広場への階段下に係員らしきが複数忙しそうにしているのが確認できた。しかし、すでに、クラフトフェア目当てらしき人々が数多く通路にたむろし、バスを待っている。バスがひどく混み合うのは容易に予想できるので、私は徒歩でフェアの会場の「あがたの森公園」に向かうことに決めた。
「あがたの森通り」を一直線に進めば、いずれ会場に着く(はずだ)。歩き始めると、私と同じ徒歩の人たちが、通りのわずかな日かげの側に列をなしているのに気付く。午前10時過ぎというのにもう日差しが強い。暑い。私も日かげの列の一員になり、歩き始めた。30分弱。