
藤村克裕雑記帳286 2025-07-17
「岡﨑乾二郎 而今而後 ジコンジゴ Time UNfolding Here」展を見た(6)

「O GREAT IN OUR DULL WORLD OF CLAY /秋風悠悠動軽波
THE MAID OF BUDA AND THE CARVEN WOOD /伐木之樵切水之魚」
2025年、樹脂、UV耐性コーティング、180.0×233.0×396.0cm。
この彫刻作品が今回最も大きな彫刻作品で、床に直に置かれていた。
乱暴な言い方をすれば、大きかろうが、小さかろうが、岡﨑氏の彫刻作品にあまり違いはないように私には思われる。
すでに、陶土を使った岡﨑氏の彫刻を知っている観客には、粘土のかたまりどうしを大胆に接合していくその作り方は、接合面というか、塊と塊との界面をこそ問題にしていることは明らかだからである。
界面という手がかりで考えてみれば、それはすでに「こづくえ」に始まっていたことは明らかであり、この場合、界面は、ナイフを入れて切り分け、その一方を折り曲げることであらわになった切断面がそれだった。界面があらわになった姿こそが「こづくえ」や「あかさかみつけ」シリーズ以来、岡﨑氏の彫刻の面白さだったのである。
また、かつて展開した二枚組の「絵画作品」。これらは、トレースとマスキングとによって成立していた。トレースした形状でマスキングして塗られた絵具の外郭=キワに出来上がる“厚み”もまた界面なのであった。
これらは、1990年代初頭、代官山のアートフロント・ギャラリーで発表された平面を組み合わせた大きな立体や、新木場にあった南天子ギャラリーSOKOで発表された3種類9個による立体が問題にした界面のことが変容したものである(この時、立体作品と共に「絵画」作品も同時に発表されていたことを思い起こすとよい)。それは、やがて、石膏やブロンズや金網による彫刻作品に至り、種明かしのようなセラミックでの彫刻に至って、今回の展覧会での3Dプリンタを動員した巨大な出品作の数々に繋がってくる。こうした岡﨑氏の作品の流れを思い起こすと、そこには「界面」という問題意識が貫かれていることが見えてくる。
とはいえ、手の痕跡をほとんどとどめていない原型=その粘土の塊は、どう操作されて得られたのか、私にはまったく見当がつかない。ヘラなどで掻き取った痕跡が、ある種の“決め”の意思を示しているのだろうとは想像できるが、果たしてそれで“決まった”のかどうかさえ、よく分からない。土練機から取り出したばかりのような柔らかめの粘土を、板状に拡げて、それを巻き取りながら、さらに曲げたり、捻ったりしていったものだろうか。あるいは、ゴムのような伸び縮みする素材の布状のものに柔らかめの粘土を包み込んで操作しているのだろうか。
岡崎氏が最も原初的な材料といえる粘土を彫刻制作のために選んだことには、大きな意味がある。心棒のない塑像。

最後の部屋にあった作品のタイトルを書き写す。
「Heaven’s Path Dim—-Threads Rise to Light, Lines Seek the Deep/諒天道之微昧,仰飛纖繳、俯釣長流」
2025年、155.0 ×173.8×138.1cm。
この大きな“台座”に乗った作品は、なんだか艶かしい。中央の大きな形が人体を思わせるからだろうか。
が、すこし右に回り込んでいくと様相が大きく変化する。

後ろに回り込むと、全く違う表情になる。

さらに回り込んでいくと、、、

こんなふうに、移動するたびに予想を次々に裏切ってくれる。いったいどうなっているのか分からなくなる。それがおもしろい。
(2025年7月17日、東京にて)
ご挨拶
今回の投稿をもって、このブログへの拙文の掲載を終えさせていただきます。『藤村克裕雑記帳』を管理運営してきた美術広告社は、掲載を終えたいという私を慰留してくださいましたが、過日、自動車の運転免許も返納しましたし(無関係だが)、そろそろ潮時、との私の考えは変わらず、私のわがままを認めていただきました。美術広告社は『雑記帳』として掲載してきたすべての拙文をアーカイヴ化したい、と申し出てくださっています。ありがたいことです。拙文がそんな価値をもっているとは思えませんが、今後のことは美術広告社におまかせしたい、と考えるに至りました。
長い間、拙文の掲載をご担当くださった美術広告社の菊池さん、大西さんはじめ、拙文の掲載を申し出てくださり、折に触れてさまざまにご援助いただいてきた美術広告社社長 藤井滋氏はじめ同社の皆様に心からお礼を申し上げます。また、拙文を見つけ出し、読んでくださってきた方々に心から感謝の気持ちをお伝えします。長い間、ありがとうございました。皆様のご健勝を祈念しつつ、感謝を込めて。
2025年7月17日
藤村克裕拝
岡﨑乾二郎
而今而後 ジコンジゴ Time Unfolding Here
会期:2025年4月29日(火・祝)~7月21日(月・祝)
開館時間:10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(5月5日、7月21日は開館)、5月7日
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F/3F、ホワイエ
主催:東京都現代美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)
公式HP:
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/kenjiro/
写真1:最も大きかった彫刻作品が中央にある
写真2:最後の部屋にあった作品の部分
写真3:最後の部屋にあった作品を右から見る
写真4:最後の部屋にあった作品を後ろから見る
写真5:最後の部屋にあった作品を左から見る

立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
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