色の不思議あれこれ155 2019-12-04
目「非常にはっきりとわからない」展 その2
もう一つの大きな部屋では、赤手袋、黒衣装の若い男性二人が白い大きな仮設壁を移動中であった。一人が私の近くにきたので、トイレはどこですか? と尋ねてみた。ずっと我慢していたのだ。えーっと、エレベーター前のロビーのところにあるはずです。
ロビーに戻って探してみると、ああ、トイレマークがあった。そこにも養生シートが下がっていたので、さっきは見過ごしたのだ。縁が粘着テープで補強された二枚のシートの隙間から入り込んでトイレに入ると、さすがにトイレには養生などはなされていなかった。“治外法権”というか、落ち着いて用を足せた。
トイレから出ると、家人から声がかかった。おいで。
家人にしたがってさっきの部屋に戻ると、二人の男性が今度はさっきの白い仮設壁をもう一度動かしていた。部屋の表情が大きく変化する。壁の後ろ側から大きな彫刻を梱包したようなものが現れる。白い仮設壁は、裏側を見せて別の場所に固定され、新たな壁が形成される。天井のレールを巧みに使ったその移動の様子は、美術館では仮設壁がどう用いられているか、展示の会場構成はどう行われるか、などを批評的に示している。二人の男性はさらに、梱包された大きな彫刻のようなものや、分厚い合板を積み重ねたものなどを動かしたりする。
家人がその男性たちに、パフォーマンス? と声をかけた。
いえ、作業です。
私も、あなたたちは「目」の人? と声をかけてみた。
いえ、作業してるだけで、詳しいことはわからないです。
あの足場の上で横になっている人は「目」の人? いつ起きてくるの?
詳しいことはわからないんです。
男性たちは、困惑したようなそぶりで次の“作業”のために私たちから離れていった。会場には、もうひと組“作業”に携わっている女性と初老の男性のチームがいて、箱などを動かしていた。これらのことによって、会場の様相が変化していく。天井からの照明が落ちたりもして、大きなぼんぼり状のスタンドの光が際立ったりさえした。“作業”の人たちは、「目」からの“台本”によって“作業”しているのだろうか。足場の上の横たわる人はじっとしたまま動かない。見事である。もしかすると人形かもしれない、とも思うが確認の術がない。呼吸の様子などは垂れ下げてあるシートで見えなくされている。“芸”が細かいのだ。
やがて、私と家人はエレベーターで8階に移動した。その後のことは、ネタバレになるので、書くことを遠慮する。会場に行って実際にご覧になると良いと思う。その方が絶対に面白い。
でも、ヒントくらいは述べていいかもしれない。それはね、私はただちにラウシェンバークの『FactumⅠ』(1957年)、『FactumⅡ』(1957年)っていう作品を想起した、ってこと。
千葉市美術館の特徴を生かし切った作品である。
(2019年12月3日、東京にて)
「目 非常にはっきりわからない」展
●会期:2019年11月2日(土~12月28日(土)
●会場:千葉市美術館
●観覧料:
一般 1200円(960円)(税込)
大学生 700円(560円)(税込)
小・中学生、高校生無料
●開催時間:10:00~18:00
金、土曜日は20:00まで
※入場受付は閉館の30分前まで
●休館日:
12月2日(月)、9日(月)、16日(月)、23日(月)
※12月2日(月)は全館休館
●公式HP:
http://www.ccma-net.jp/exhibition_01.html
立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
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