色の不思議あれこれ126 2019-03-28
横浜でのこと・補遺 その1
横浜のBankART Station+R16 Studioのグループ展「雨ニモ負ケズ」で小田原のどか作品を見たことはすでに書いた。その時、会場で『彫刻の問題』と『彫刻1』(いずれもトポフィル刊)など出品者の関連書籍を販売していた。ビンボーじいさんには痛い出費だったが、作品を実見したあと、思い切ってこの二冊を買った。それを読み始めたところである。
小田原のどか、という若い彫刻家のことをどう知ったか、忘れてしまった。きっと、“ネットサーフィン”によってであろう。長崎の「原子爆弾中心地」に1946年から48年まで立てられていたという矢羽の形状の標柱を手がかりにした作品などを制作しているだけでなく、論文を書き、仲間と出版も行なっている、というので俄然興味を持った。しかし、作品を見たことがなかった。BankARTでの「雨ニモ負ケズ SINGING IN THE RAIN」展の情報も“ネットサーフィン”で得た。
BankARTが市営地下鉄線・高島駅すぐの場所に引っ越してから、今回初めて訪れたのだが、station会場の「雨ニモ負ケズ」展は7名の出品。
受付のすぐ奥に、松本秋則氏。竹で作られた模型飛行機のような羽ばたき鳥のような無数の形状がモビール状に下げられて動きながらカラン・コロン・ポカン・ペコンと音を発していた。松本氏の作品は昔、神田・真木画廊などでたびたび見たので懐かしかった。音は西原尚氏の作品の鉄板からもポヨーン・ペヨーンと発せられていて、音が会場を“支配”していた。村田峰紀氏のボールペンを強い筆圧で合板に押し付けて線を引いた作品と本に刃物で穴を抉った作品。開発好明氏の蛍光灯を並べて“書いた”「雨」の字と発泡スチロール製パッキング材による雲らしき作品と福島に設置されていると聞く「政治家の家」の写真。山下拓也氏の人の背丈ほどの多数のヘナヘナ“キャラクター”による作品。(別会場に高橋啓祐氏の映像作品。)
これらが並ぶ向こうの壁のぽっかり開いたところのさらに向こうの暗い広がりの中に小田原のどか氏のネオンによる作品「↓(2019)」は赤い光を発していた。ネオンは、長崎の「原子爆弾中心地」にあったという標柱を引用した形状を線で示している、という“予備知識”がなければ、矢羽という形状さえ思い浮かばなかっただろう。私は、幸か不幸か、すでにその知識を得ていたので、ああ、こういうものだったのか、という確認をしている印象になった。ちょっとしたことで壊れてしまいそう、という印象を得たのは、ネオン管同士がわずかに離れざるを得ず(というか、わざと離れるようにした?)光の線が接合すべきところにわずかな隙間を見て取ってしまうからであろう。下が細く上が広がっている「図」の形状もまた不安定で壊れやすそうな印象を作り出しているように見えた。ネオンの赤い光は、天井部や天井部にある構造物に反射してそこにも不定形の赤い広がりを作り、周囲の柱や壁、床にもわずかな赤い色を呼び起こしていたから、床面の広がりやその位置を感じ取ることができる。その床の上で、ネオン管は床から少し離れて、ということはわずかに浮き上がってそこにあるように見える。いかにも壊れてしまいそうで、地に足がついていない、そういう効果を得たくてネオン管を用いているのだろう。なぜなら、標柱は今や不在なのだ。赤い色を選んでいるのは、原爆爆発時の熱? 血? 様々なことを想起させる。暗い広がりの中のかなり離れたところに設置された『↓(2019)』である。中には入って行くことができない。覗き込んだ開口部の壁には、この作品の形状の引用元=長崎の原爆の爆心地の標柱が写り込んだ写真図版が二種類、それぞれ大きく拡大されて展示されており、テーブル上には観客が一冊ずつ持ち帰ってよい小さな冊子がおかれていたので、遠慮なくいただいてきた。ということは、この総体が作品だ、ということになろう。冊子を読むとじつに丁寧に作られていた。
R16の方の小田原作品は、やはり矢羽の標柱からの引用のネオン作品と拡大された標柱の写真図版のプリントだった。展示空間自体がstationに比べて狭く、また外の道路から“窓”越しに作品を覗き込めるようにもなっており、周囲から昼の光が入り込むので、ネオン管の構造が露わで、stationの方とは異なった印象になっていた。赤い光のネオン管のサイズなども異なっていたのかもしれない。
つづく→
立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
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