色の不思議あれこれ125 2019-03-22
横浜を歩いた日 その2
かまぼこ板を彫って作った何種類かの版に墨を塗って和紙に押し当てて絵を構成していくことや、絵に文字を書き込むことや、リトグラフなどにも取り組みはじめて、戦後の制作のピークが訪れていく。構成、といっても数種のハンコによる基本形態が向きを変えながら並んでそれら相互が関係づくわけで、あっけらかんとしたとぼけた味わいを醸し出している。版への関心は、すでに戦前の油絵の作品に布のメッシュや軍手を押し当てたりしていることから、早い時期から芽生え、それが継続していたことがうかがえる。また、拓本の技法を用いて木目を構成的に配していく取り組みも自然な展開に見えて、唐突感はない。その木目は木造の古い漁船を一隻購入してそのあちこちから“採集”したものという。長谷川はお金持ちなのだ。
東京帝大で美術史を学んで卒業後、すぐ、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、スペインに遊学し、ではいよいよ、とパリ・モンパルナスにアトリエを構えた矢先、父親が亡くなって帰国、という経歴の持ち主である。英語が堪能で、欧米の諸事情に通じていた。
帰国後の活躍は多岐に渡る。戦争中は疎開先の長浜市で、農事のかたわら、俳句や禅、茶道に専念し、老子を書写していたらしい。土地の青年団のために蔵書を公開したりもしていたという。
戦後は、米軍の通訳もしたが、制作や展覧会活動、執筆など啓蒙活動にも意欲的にあたり、帰国したイサム・ノグチと出会うことになる。その後、活動はピークを迎え、その舞台はアメリカに広がっていく。先のフォトグラムなどもこの時期のものである。1954年に渡米、次の年1月に一旦帰国後9月に再渡米、本格的に移住の態勢を整えるも、1956年11月上顎癌発症、手術。1957年3月死亡。そんなわけで、日本でよりアメリカでよく知られた人である。今回の展覧会もアメリカの大学教授とキュレーターから持ちかけられて実現したものという。
私は不覚にして長谷川のことをほとんど何も知らなかった。通観して、なるほど、こういう人だったのか、という思いであった。そして、もっと知りたい気持ちがつのっている。(あ、イサム・ノグチのことに全然触れていないけど、いつか別の機会に。)
そんなわけで、満足して美術館を出て、テクテク歩いて新高島駅すぐのBankART Stationの「雨ニモマケズ」展に行った。入り口のカウンターで、どなたかお知り合いがいらっしゃるのですか? と聞かれた。じいさんが顔を出すのには不具合な展覧会なのだろうか。正直に、小田原のどかという人の作品を見に来ました、と応じたら、ああ、と黙ってしまった。写真いいですか? と尋ねたら、どうぞご遠慮なく、と言ってくれた。ここでもタンノウということができたのである。
R16というところにも小田原さんの作品の展示があります、とさっきの人が教えてくれたので、再び歩いてそこになんとかたどり着いた。根岸線の高架の下の空間を展示場などにしているのだった。入口がわからなくて、空いていたところから入ってキョロキョロしていると、ここから入るのではありません、あっちからです、といつの間にか現れた女の人に叱られた。叱られたが、ここでもタンノウということはできた。(あ、小田原氏はじめ作品のことに触れていない。でも、今回はもう別の機会に。ともかく実に多彩な若い人である。面識は全くないが。)
ついタンノウの勢いで、さらに横浜駅まで歩いたらヘトヘトになった。そのまま電車で帰ろうと思ったけど、あ! 相模原に行かなくちゃ、と用事を思い出して、混み合う八王子行に乗って町田までずっと立っていた。相模原駅から目的地までさらにテクテク歩き帰路も同じに歩いて、ヘトヘトになった。
拙宅までの最寄り駅までの電車では座って家まで帰ることができた。とっても疲れたけど充実した1日だった。昨日のことである。
今日も午後から、駒込→蒲田→自由が丘と動いてやはりヘトヘトになった。もう寝る。おやすみなさい。
2019年3月21日 東京にて
●「イサム・ノグチと長谷川三郎/変わるものと変わざるもの」
横浜美術館
3月24日(日)まで
公式HP:https://yokohama.art.museum/
●雨ニモマケズ
Bank ART
http://www.bankart1929.com/bank2018/news/19_006.html
立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
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