色の不思議あれこれ076 2017-10-10
東京国立博物館で「運慶」展をみた その1
たしか、春頃にはもう「運慶」展のことは大々的に宣伝が始まっていて、楽しみにしていたが、いつの間にかすっかり忘れてしまっていた。思い出させてくれたのは、NHK・TV「日曜美術館」の予告篇。来週の特集は運慶だ、という。あ、もう始まっているのだ。「日曜美術館」で特集されてしまうと、その展覧会の混雑はひどいことになってしまう。ゼッタイ今週中に見に行くぞ、と意を決し、上野を目指したのだった。
晴天の午後。上野駅公園口。改札から公園に向かっていく人々のすべてが「運慶」展を見に行くように感じる。まさか、とは思う。が、あのどしゃ降りの日に都美術館前にできていた行列のことが頭をよぎる。あれは若冲展の時。私は見るのを結局断念した。
そういえば、あの「清明上河図」が博物館にやって来た時には、正月早々、朝8時過ぎから、すでに門のところにできていた列に加わった。じっと開門を待ち、門から平成館まで走って、入場し、息を切らしながら他のものには目もくれず、まっさきに「清明上河図」のところを目指したのに、すでにもう行列ができていてそこでも長い間待たねばならなかった。あげく、止まらないで下さい、止まらないで下さい、と絶えず誘導の声が聞こえていた。やっと自分の番が来たから、必死で見た。ちゃんと見ようとすれば、当然時間がかかる。足は止まる。足が止まれば誘導の声は険しくなる。それでもよく見たいから、少しだけ動く。そして止まる。そうして“進んで”いると、そのうち行列の中から、はやくしろ! だったかどうだったか、声がかかった。思わず、うるさい! と言ってしまった。そしたら、ずいぶん勝手な奴だな、と別の声がかかった。あんたもここに来たらきっと同じようになる、と応じた。じつに不愉快だった。不愉快だったが、さすがに素晴らしい巻物だった。係員に促されながら見終えさせられて、もう一回見たくて、すでにかなり長くなっていた列の末尾にもう一度並んだ。ああ、あの頃は、はっ!(和田アキ子)まだ若かったのだ。
そんなわけで、あんな根性はもうないなあ、と思って、たくさんの人々の背を見ながら改札から歩き始め、右手の西洋美術館の前に掲げられている看板に腰が抜けそうになった。「北斎とジャポニズム」とある。ドガの踊り子の絵と北斎漫画からの一コマが併置してある。ポーズがそっくりだ、ということだろう。あ・あんまりだ、と思った。…が、先を急いだ。樹々の間の野口英世の銅像の前を通る。いつもの道筋だ。野口英世は小柄な人だったらしいが、銅像の野口英世はとても大きい。
つづく→
立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
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