色の不思議あれこれ018 2014-09-04
関島寿子さんの作品を見た(1)
東京虎ノ門・智美術館で開催中の『陶の空間・草木の空間 川崎毅と関島寿子』展(9月28日まで)をみて、関島寿子(せきじまひさこ)さんの作品にあらためて感心させられた。この展覧会の事は、数週間前のNHK「日曜美術館」の展覧会案内のコーナーで知った。
関島さんは日本を代表するバスケッタリー作家。素晴らしい作品を作り続けている。バスケッタリーというのは、バスケット=かごを作ることだが、関島さんの作品は私たちが普通にいう「バスケット=かご」の姿をしていない。バスケットというより、彫刻!といったほうがよさそうに思うくらいだ。
関島さんの事は、札幌の加藤玖仁子さんが作った本で1980年代のはじめに知った。加藤さんの事は、大学の先輩の美術家・宮前辰雄さんから教えてもらった。なんだか伝言ゲームみたいだけど、これらの人々はすべて「繊維(ファイバー)」でつながっている。
関島さんが書いた『バスケタリーの定式』(住まいの図書館出版局、1988年)は、今読んでもほんとうに素晴らしい。この本は万人の必読書。この本を読んで、私は私の“世界”を確実に拡げてもらったのだから、関島さんも私の恩人だといえる。
あ。関島さん、関島さん、と書いているが、お目にかかったのは一回だけ。関島さんが忙しくしておられる合間のごく短い時間、おそらく数分だった。それでも私はとても緊張し、すこしだけお話しできたことが今に至るまでの貴重な“体験”になっている。まっすぐで強い眼差し、明晰な言葉。関島さんは、本で感じたままの方だった。
関島さんの作品が素晴らしい、と私が思うのは、繊維である自然素材の特質と制作の方法論とがせめぎ合っているところ。その様が異様なくらいの繊細さと迫力とを同時に生じている。数学的、といってよいほどの厳密な方法論が一つ一つの作品に貫かれており、その方法論はそれぞれの作品で異なっている。同じ方法論は繰り返されない。絶えず作り方の構造が探られている。
方法論を基軸にして作品作りに取り組むこと自体が、この国では極めて珍しい。多くの作家が、超絶技巧や洗練へと向かうか、情緒的な好みや味づくりに流れるか…、というような中で、関島さんは意志的に屹立し続けている。以前、平塚市立美術館で、いくつもの関島さんの作品をみることができた時も感動したが、今回もとても感動した。出品されていた作品では、1994年作がもっとも旧作だった。その「無題かご」と「四箱」も素晴らしいが、とりわけ、「構造を持つ量塊Ⅳ」(2009年)、「九葉」(2009年)など、素晴らしい、と思った。しばし見惚れて時を忘れた。
近年は「なわ」の作品がたびたび作られているようである。展覧会には、「なわの記録Ⅱ」(2007年)、「なわの記録Ⅲ」(2007年)、「なわの記録Ⅶ」(2012年)、「なわの記録Ⅷ」(2014年)が出品されていた。「なわ」はふつう藁に撚りをかけてつくる。繊維に撚りをかける事で、繊維はその姿を一変させる。姿だけではなく、強度も機能も変化する。その「撚り」に着目した作品群である。一見するとただ撚りをかけて造形しただけのようだが、よく見るとここでも異なった方法論が貫かれているのが分かる。シンプルな営みの中に「問題」を発見してそれと取り組み、さらなる「問題」を発見して行く関島さんの姿勢がいよいよ露わになっていて、ほんとうに頼もしい。
たまたま訪れた8月30日には、関島さんによるギャラリー・トークがあった。幸いそれに参加することができた。素晴らしい内容のお話だった。多くの人が聞き入っていた。私の今年分の幸運をすべて使ってしまった感じ。そのトークの内容は、追ってここで報告したい。
(8月31日、東京にて。)
つづく
立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
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