藤村コラム224 2022-09-05
絶対音感の持ち主が音痴って
今朝、たまたまつけていたテレビに、驚くべき人物が登場していた。「山口めろん」さんという。メロンのかぶりものをしていて、喋るときには語尾に必ず、メロン! とつける。司会者から、絶対音感の持ち主なのにとっても歌が下手、と紹介されて、ピアノの弾き語りを始めた。
滑らかにピアノを弾くが、歌の方は確かに音程もリズムもヘンだった。それは「音痴」と言ってよい風格であった。
私はこの事態が理解できなくて、思わず真剣に見入ってしまい、見入ったからといって理解できるはずもなく、スイッチを切ってもモヤモヤし続ける。
そこで、思い切ってここに書いて(打ち込んで)みれば少しはモヤモヤが晴れるのではないか、と考えた。うまく書けるはずがないが、、、。
絶対音感の持ち主が「音痴」、って、その意味が分からない。
だって、日常のどんな音もその高さと長さを五線譜上に記述できるのが「絶対音感の持ち主」ってことのはず。複数の音が同時に重なって聞こえてもその音の一つ一つを聴き分けて一つ一つ記述する、ということだってできる。ピアノの調律がちゃんとできていない/できている、なんてことは、絶対音感の持ち主にならすぐに分かるだろう。
ならば、自分が歌っているときの声も例外ではないはずではないか。
なのに「めろん」さんは、自分ではとっても上手に歌えていると思っていマスクメロン! などとニコニコしながら言うのであった。
昔、「ゆうこりん」と呼ばれていた小倉優子ちゃんは、じつは「こりん星」からやって来たのではなかった。今は誰でも知っている。
「山口めろん」さんも、じつは「音痴」ではないのではないか。
清水ミチコさんは、右手(だったか左手)で「大岡越前」の旋律を弾き、同時に左手(だったか右手)で「水戸黄門」の旋律を弾くことができる。
昔、これもテレビで見たのだが、高橋悠治さんがクセナキスという人が作曲したピアノ曲を弾いた。これを弾くには暗譜するしかないんですよ、と弾き終わってこともなげに言った。暗譜などとてもできそうもないような、乱暴に言えば“騒音”の連なりのような曲だったので、音楽家の凄さを実感したものだった。
旋律というまとまりではなく、ある時間のまとまりを薄く輪切りにして音を配し、それらをもう一度繋いでいけば“結果的に”旋律のある曲になる、というような捉え方が音楽をやる人にはあるのではないか。
「山口めろん」さんが「音痴」を装っていて、“普通の”ピアノ伴奏と「音痴」の歌唱との全体のまとまりを輪切りにして連ねているとしたら、絶対音感の持ち主なのに「音痴」なんです、という“奇妙さ”を売り物にした演奏は十分に可能だろう。とすれば、ずいぶん手の込んだことをするものだ。確かに、自分ではとっても上手に歌っていると思いますコリン、じゃなくて、思いマスクメロン、という発言に嘘はなかったわけである。ふ
ノコギリの歯をたわませてマレットで叩く。そして、“お・ま・え・は・あ・ほ・か〜”とやって笑わせる。あれは「横山ホットブラザース」だったか。あ、不意に思い出してしまった。
(2022年9月5日、東京にて)
山口めろんさんの動画
https://www.youtube.com/watch?v=Slh0AumYTnM
立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
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