藤村克裕雑記帳

色の不思議あれこれ199 2021-04-13

モンドリアン展に行ってきた

 モンドリアンの絵がたくさん東京に来ている、というのに、見物に行かないという手はないでしょう、というわけで、行ってきたぞ、『モンドリアン展』。
 コロナのせいで、予約が必要で、そういうことは、家人がやってくれたのだが、パスワードまで求められて、実に厄介だったようである。パソコン音痴の私は、そうなの? てなもんなのである。
 でも、面白かった。何が? だから『モンドリアン展』が。
 ともかく初期作品。どれも的確で、すでに非凡さが明らかである。まず、色感がいい。とりわけ明度の低い色。その中にデリケートな調子を見出していく力は並外れている、と見た。
 また、コントラストやアクセントで処理したりしない。こういうことが、モンドリアンの力量の確かさを示している。決然とした意志のある筆触で確かな色を置いている。こうした初期作品が多数展示されているのは実に嬉しい。堪能ということをした。
 階を降りると、いわゆる「モンドリアン」らしいのが示されている。そのきっかけは「キュビズム」からの影響だというのだが、本当か?
 確かに「女性の肖像」(1912年)ではキュビズムとの共通項が見て取れないわけではない。しかし、「コンポジション木々2」では周囲の「枠」の方に目が行ってしまう。信じがたく伸びやかな線の枠である。1916年の「コンポジション」では、滲みで生じている調子の表情に目が行ってしまう。そんなわけで、“ノイズ”の方が私には面白かった。モンドリアンの「キュビズム」受容へは目がいかなかったのである。
 モンドリアンがモンドリアン特有の様式を確立し展開していく過程の様子を今回の展示から読み取ろうとしても、それは難しい。『デ・スティル』に横滑りしてしまうのである。とは言え、ふだんあまり目にする事ができないモンドリアンの複数の作品に至近距離から目をこらす事ができる。
 私は昔、モンドリアンの絵の黒線から交差する箇所を取り去ると「空間」が貧弱になる、ということについて文を書いた事がある。漫画のコマの枠線が視線の自然な動き(コマを読む順番)を誘導していることとの比較で考えてみたのだったが、その考えは今も変わらない。しかし今回の展示を見て、それ以外にも色々考える事があった。

 まず、キワの処理。マスキングテープを用いていたかどうかわからないが(テープが残ったままの作品もあるようだが今回は来ていない)、たとえテープを使っていたとしても(使っていないと思うが)、マスキングの痕跡が画面に残るようなラフさをとどめていない。非常に丹念な塗り込みが優しい。加えて、一見白い色面に見えるところに調子の違いが与えられているのが見て取れて、このことでもまた「空間」が形作られているのが分かる。また、黒線がキャンバスのキワまで届くのか、“寸止め”されるのか、という問題を抱えているのが興味深い。“寸止め”される時は、色面との関係が生じるので、その解決のされ方がとても面白い。モンドリアンの息遣いが感じられて親しみが湧く。さらに加えて、キャンバスの側面の処理。
 手製と思われる額縁から少しだけ前面に飛び出させて側面がわずかに見えるようにしてある作品がいくつかあった。そのわずかな側面にも描かれていて、その処理が実に興味深い。絵が厚みのある“物体”に変じようとしている様子を観察しているかのようである。
 同じ事柄の発展形であろうか、昔、気になる記述を見つけて、ぜひ実物を見たい、と思って来た作品がある。「ブロードウェイ・ブギウギ」。
 「ブロードウェイ・ブギウギ」はモンドリアン最後の完成作、ということだが、「カンバスは平らな台の上に乗り、『絵画を超える絵画』であるために額縁を持っていない」(藤枝晃雄『絵画論の現在』スカイドア より)との記述。これが気になる。同じ文では続けて、1922年作の「青、赤、黒、黄色のコンポジション」では「はるかに著しい」とある。平らな台の上に乗っている様子が「はるかに著しい」のであろう。これらの作品の側面はどうなっているか? 会場にあれば確認できる、という実にかすかな期待を持っていたが、やっぱり来ていなかった。ま、やむを得ないのである。コロナがおさまったらアメリカまで見物しに行きたいものだ。私はアメリカ大陸に行った事がない。
 それにしても、あの有名な「ジグザグ」という椅子の座面が奥の方にわずかに狭まった“台形”だったのには驚いた。芸が細かく行き届いて、実に豊かになっている。そんなことに気付かされた次第で、思わぬ収穫、というかなんというか、あ、不勉強の露呈そのもの。
(2021年4月6日、東京にて)

画像:《色面の楕円のコンポジション2》
1914年、油彩、カンヴァス
デン・ハーグ美術館 Kunstmuseum Den Haag
ピート・モンドリアン



生誕150年記念
モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて

・会期:2021年3月23日(火)~6月6日(日)
休館日月曜日(ただし5月3日は開館)
日時指定入場制

・10:00 - 18:00
(入館は閉館30分前まで)


・場所:SOMPO美術館
・オンラインチケット
https://www.e-tix.jp/sompo-museum/

一般   :1,500円
大学生  :1,100円
小中高校生:無料
障がい者手帳をお持ちの方:無料

公式HP
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2020/mondrian/







藤村克裕

立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。

藤村克裕 プロフィール

1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。

1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。

内外の賞を数々受賞。

元京都芸術大学教授。

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