色の不思議あれこれ192 2020-12-01
相模原で「受験絵画」、群馬で佐賀町
相模原・パープルームギャラリー で「受験絵画」の展覧会(「青春と受験絵画」展)をやる、というので、初日土曜日、はるばる行ってきた。決して大きいとはいえない(というか狭い)ギャラリーは、すでに人でごった返しており、中に入るのがためらわれるくらいだった。
「受験絵画」というのは、「美術大学の入試で課題として出される絵画作品の呼称」で、今回の展示では「油画科および絵画科の試験用のための修練として描かれた作品、あるいは合格者の再現作品」(「青春と受験絵画」展冊子による)を指しているらしい。が、どの作品が再現作品で、どの作品が日常的に「修練」のために描かれた作品なのかはどこにも明示されていなかった。総数27点。新宿美術学院が協力している(らしい)。
会場にいたギャラリー運営を主導する梅津庸一氏が、これはカワマタさんのですよ、とか、これは荒木さんのですよ、とか、これは荒木さんが「受験絵画」を教わった塩川さんのですよ、とか、これは安藤さんので、この年は落ちました、とか説明してくれた。
「荒木さん」というのは梅津氏とともにこの展覧会を作り上げた荒木慎也氏。美術予備校のパンフレットのコレクターでもある(らしい)れっきとした美術史家である(らしい)。ちょうど会場に居て、少しお話しできた。
「塩川さん」というのは国画会会員の塩川高敏氏。代ゼミ横浜校で荒木氏の先生だったそうだ。彼は私が学生だった時、彼末宏研究室(通称5研)の助手だった人。確か近年亡くなった。まだ若いはずなのに。塩川氏の「受験絵画」は1960年代のもの。同氏は現役合格だった、というから高校生の時の絵にもかかわらず、とてもしっかりとした目の力の所在を示している。
「カワマタさん」というのはもちろん川俣正氏。1974年作と冊子にあったから、3浪の時の絵だろう。すでに大変な水準の、実に安定感がある絵だ。これはもう、当然のようにこの時合格している。1浪時に札幌の笠井さんの研究所にいた彼は、すいどーばたで勉強しようと2浪で北海道から東京に出てきて、どばたのすぐ近所に部屋を借りた。それなのに、もう定員いっぱいだ、と入学を断られ、やむなくその部屋から新宿美術学院に行った、と当人から聞いたことがある。その部屋で近所の火事を見つけて通報しことなきを得たことがあった、という話も聞いた。大昔のことだ。あ、そんなことはどうでもいいのだった。
「安藤さん」というのは、パープルーム予備校一期生で東京芸大油画科合格後、芸大が嫌で嫌で中退し、パープルーム予備校に舞い戻って、現在パープルームメンバーの安藤裕美氏。その経歴はパープルーム予備校に多大なインパクトを与えているように見える。
さて、会場に並んでいた絵は、大部分、私の想像以上に「普通」だった。なあんだ、何にも変わってない、というのが正直な印象だった。弱さ・ダメさも正直に露呈させてしまっていて、若さが溢れている。ちょっと拍子抜けしたくらいだ。大まかに言えば「健全」な印象だったのである。東京芸大油画科の入試の混迷のせいで、もっと「病的」な絵が、合格のため、と予備校で強いられ、そういうものが並んでいるのではないか、と思っていたので、ちょっとホッとさせられたのである。その割に伝わってくるはずの熱のようなものが微量だったのは「合格者の再現作品」の故か? 梅津氏が大好きだったというある「受験絵画」には、正直感心させられなかったが、梅津氏の好みの一端は知ることができた。
何年か前、私が相模原に松澤宥の初期作品の展示を見に行って梅津氏と初めて会った時、ここは予備校なんです、展覧会もお客さんもみんな教材なんです、ここは僕の自宅なんです、と彼は言った。あまり、といえばあまり、の発言にびっくりして、インタビューを申し込んで手作りの冊子を作った。でも、予備校、というのはどうやら擬態で、パープルーム予備校では大学合格は目指していない、そういう“予備校”だというのが次第に分かってきた。パープルームというのはどうやらスーパープルームに由来するらしいのだが、そこに水を向けた私に、彼は、パーはゴルフのパー、パープルルームでもなんでもいい、と言って話題を変えた。私は不覚にして知らなかったのだが、すでにその時には梅津氏はもう有名人だった(らしい)。その後の活躍も知る人ぞ知る、である。
つづく→
立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
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