色の不思議あれこれ084 2017-12-04
「古代アンデス文明展」をみた その2
会場入り口で迎えてくれたのはリャマの姿をした焼き物。予想外の大きさだが、じつにかわいい。背中に円筒形の“口”があって容器としての機能がある。
次の展示は、先のとんがった黒い打製石器がひとつ。大昔=先史時代に、南アメリカまではるばる移動してきた人々がいて、ここに住み始めた人々がいたことの物的証拠、ということであろう。巧みな導入である。
映像での概説はじつに手際が良い。なかでも、ヒョウが人間の力をはるかに超えたものの象徴になっていることが説明されていたから、第2章における人間の頭部がヒョウに変容していく様子を示す2点の石彫=「テノンヘッド」の形状の読み取りがたやすくなっていたし、大きな牙のある独特な顔=首が土器などに繰り返し現れることの意味も腑に落ちるのだった。また、生け贄についても触れられていたことが、人間のほぼ実物大の頭部の肖像土器や首の模様などをはじめ人間・生き物の姿を捉えた造形物にある怖さを感じさせる要素を加えている。神像と人間の姿が展示物の軸になって、それに鳥や動物の姿、装飾品や実用品が加わって「古代アンデス文明」が概観できる、そういう展覧会。
怖い、といえば、第2章の「自身の首を切る人物の象形鐙(あぶみ)型土器」はじつに怖い。
入れ墨のある男(?)が座った状態で喉元(?)を切られて(切って)、頭部だけが仰向けにのけ反っているところが示されている。それは30センチ位の高さのものだったが、びっくり仰天。だって、切り口に血管か気管か食道か、判然とはしないがともかく切断された管が複数覗いているし、手には刃物のようなものを握っている。自分で切ったらしい。のけ反っている顔の表現が、何事もなかったかのような穏やかさをたたえている。赤い彩色が生々しい。とはいえ、顔=頭部の向きが奇妙だ。この状態でここに顔があるはずがない。喉元を切って仰向けになるなら、背中側に仰向けになるはずだ。なのに、お腹の方向に仰向けになっているのだ。何かの事情で捻れてしまった、というような表現はない。キャプションにもこのことについての言及はない。ありえない。どう解釈したらよいか? 宙吊りになる。
とっても怖い。「鐙(あぶみ)型」と呼ぶらしい独特な注口部が両肩にまたがってついているのも、奇妙さを増幅する。容器をなぜこんなふうに怖く作るのか。ただごとではない。神聖な供物に用いたからだろうか。
生け贄のことはこの像に辿り着く前にパネル等の説明にあった。首は特別な意味を持って神に捧げられるらしい。首だけの表現の事例はたくさんあるらしいし、今回の展示にも多く見受けられた。しかし、切断の進行途中を示した事例はここに示されたものを含んで二つのみだ、とキャプションにはあった。ということは、いかにも特別なもの。なのに何故、解剖学的な不自然さ=誤りを生じているのだろう。よく観察すれば、刃物のようなものを握っている右手の指の表現もまた不自然だ。親指のつく位置が反対側になっている。というか、左の手が右腕についている。たんなる誤り? それとも意図的にこうしているのだろうか?
しばし、考え込んでしまった。これだけの焼き物を作る技術をそなえた人々が、こんなに素朴なまちがいを見逃すだろうか。そんなことはまずなさそうだ。とすれば、意図的に?
たしかにこの土器だけ“二度見”“三度見”させられ、ギョ・ギョ・ギョ・ギョとしてしまって、考え込まされたのだから、意図的に“誤り”をなしたとすれば、その意図的な行いは大成功した、といえる。うーん…、そうなのかなあ…。答えは…、えいっ!保留!!
その後も(その前も)、次から次に、面白すぎるものが現れた。その度に私は没入してしまって疲れていった。あげく、ミイラの章ではミイラに申し訳ない集中度に成り果てていた。ショップを流し、そして気がついたのだ。とってもお腹がへってる、って。空腹を忘れていたわけだ。入場してから二時間たっていた。
博物館内の食堂で簡単なものを食べたら簡単に元気になった。簡単な話だった。
なんだかソンしたようなトクしたような、そんな気持ちで帰路についた。それにしてもすごい展覧会だった。チャビン遺跡の地下通路のことなどまったく知らなかった。不覚であった。いまも余韻に浸っている。
「古代アンデス文明展」は来年2月18日まで。
2017年12月3日、東京にて
●会期:2017年10月21日~2月18日
●会場:国立科学博物館
●時間:9時~17時まで入館は閉館の30分前まで
●公式ホームページ
https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/ueno/special/2017/andes/
立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
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