色の不思議あれこれ002 2013-04-15
ミッドタウンでイルミネーション見物
この間書いた文で、兵庫県立美術館よりも年末恒例のイルミネーションの現場の人々に軍配を上げた。その責任があるので、東京ミッドタウンの芝生広場の「スターライトガーデン2012」と名付けられたイルミネーションを見物してきた。家人がインターネットで調べてくれた。職場から近いこともあったし、家人も行きたいというので、駅で待ち合わせた。
都営大江戸線の六本木駅から人々の流れに従って歩くと、目指す方向から多くの人がこちらに向かって歩いてくる。たいへんな賑わいである。通りの樹木には、ずーっとイルミネーションがなされている。ところどころに案内板らしきプラカードを掲げた人がいる。薄暗いのでよく見えないが、矢印の方向へ誘導しているらしい。
今まで各所で見かけたイルミネーションは樹木の枝に添って電球のついたコードを這わせたものだった。この通りの樹木のイルミネーションもそういうものだった。そういえば、金属の線材で、トナカイとかサンタとか雪だるまとか雪の結晶とかの形状を作ってそこにコードを這わせていくのも各所でみかけたし、蛍の大群みたいに点滅するのもあった。ああいうのは、家庭用のクリスマスツリーの電飾が大掛かりになったような印象だった。赤や緑の光を使ったのもあった。青い光が登場した時は驚いた。
そんなことを思い出しながら歩いていくと、確かに樹木を利用してはいるが、樹木の形状とは全く関係のない形状のイルミネーションに出くわすことになった。シャンパンのグラスの形状をかたどっているらしい。おまけに、その形状のあちこちから、光の粒がしずくのように落下する。つまり、これは造形ということをしているのだった。このような動きを伴ったイルミネーションには初めてお目にかかった。もちろん、光の粒が実際に落下するのではない。縦に並んだ光源が上から下へと順番に規則正しく点滅して、落下する運動のゲシュタルトを形成しているわけである。パチンコ屋の電飾と同じ原理だ。つい、家人に「ゲシュタルト」の説明を始めると、無視された。
やむをえず家人の後を追うと、こんどは斜め上を横に蛇行しながら移動するゲシュタルト(くどいか)が見えた。ただ光が移動していくのではなく、進行方向の側に光が多く集まりながら移動するので、頭と胴としっぽのある生き物が移動するのを連想させる。ヘビとか、龍とか…。胴やしっぽあたりには動きの余韻のような巧みな表現がなされている。すげぇ。なんてこったい。ちょっと驚いた。
もっと進むと、人々の群れがたまっている。案内の人が、こんなところに立ち止まっていても人の頭しか見えません、時計回りで進んでいけば先の方でゆっくりご覧になれる場所があります、ですから、立ち止まらないでください、と言っている。ユーモラスな口調が好ましい。素直に案内に従って進んでいくと、隙間から青い光の群れが見えた。隙間に吸い寄せられて行くと、なんと最前列に出た。
ひえぇー。びっくりしたぞ。一面が青い光の粒で埋まっている。さらに、無数の光源が点滅してさまざまな動きのゲシュタルトが形成される。それだけでなく、光源がどうやら物理的に動いている場所もある。しばし立ち尽くした。
あとでもらったパンフレットを見ると、光源の光の点(おそらくはLED電球)の数は約28万個だそうだ。それだけの数をコンピュータ制御して操作しているのだろう。制御しやすくするための一定の単位は読み取ることができる。が、プログラミングや配線のことなどを考えるとぞっとする。たとえ、あんたやってみな、と言われても、ちょっと遠慮するのが賢明かもしれない。光源が揺らめくのは「モーションイルミネーション」というらしい。光源の位置が実際に揺らめいているのだそうだ。モーターとかで動くのだろう。ゲシュタルトではない物理的な動きだ。あちこちにスピーカーが仕込まれていて音と光が連動している。
目を上げるとライトアップされた東京タワーが見える。樹木のイルミネーションが真っ赤に変化する。風で枝が揺れるから光が揺れる。それらの間を蛇行しながらさっきよりさらに大がかりな“龍”が走る。
…すべての光が消える。とはいえ大都会の真ん中では真っ暗になるわけではない。ないが、しばしのインターバルが訪れる。 知らないうちに世の中はこんなことになっていた。寒かったけど面白かった。都内各所でこうした催しが行われているらしい。被災地のことを思うと複雑な気もする。
(2012年12月17日、東京にて)
立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
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