藤村コラム226 2022-09-30
「フジオプロ旧社屋をこわすのだ !! 」展
西武新宿線「下落合駅」あるいは都営バス「新宿駅西口←→練馬車庫」線の「目白5丁目」停車場から歩けば行ける中落合1丁目の「フジオプロ旧社屋」で取り壊し前の展覧会がある、というので行ってきた。
建物の改修や取り壊し前にそれを自由に使って美術展(など)を行う、という「手法」は誰が始めたことだろうか。ゴードン・マッタ=クラークなどが真っ先に思い浮かぶが、彼の場合、建物全体が作品と化してしまう。だから一味も二味も違うわけだが、ともかく改修や取り壊し前の建物を使う展覧会は今となってはそう珍しいことではなくなったが、フジオ・プロダクションが自分達が使ってきた社屋でそれを行う、というので見物してきた。半分以上、のぞき趣味というべきか。
「フジオ」というと、藤子不二雄と赤塚不二夫と、漫画界には巨星が二つ。赤塚不二夫の方のプロダクションの催しである。赤塚不二夫を知らない人はいないだろうが、若い人たちにはあまり馴染みがないかもしれない。
道に迷うことを心配したが、多くの花飾りに囲まれた暖簾が下がっていたのですぐに見つかった。建物自体は驚くほど地味で質素な印象。
検温してもらって、アルコール消毒し、予約を確認してもらう場所に入ると横にはグッズ売り場があり、三面の壁にタケヤマノリヤ、タナカカツキ、川口貴弘、黒田征太郎、しりあがり寿、高橋キンタロー、安斎肇、五木田智央、みうらじゅんの小ぶりな作品が並んでいる。奥の小さな部屋に野上眞宏、浅野忠信、宇川直宏、パラモデル、さらに廊下を隔てた小さな部屋は壁を真っ赤にしてあって田名網敬一、伊藤圭司など(「など」というのは、もう一人「EYE」に似た名前の人がいるのだが二つ目のE左右反転しており、どう操作すればそのフォントを呼び出せるかがわからない)が並んでいる。床や壁に直接線を引いたりペイントしたりしてもいるが、ほぼ無難で小ぶり、ふーん、という感じの作品が多かった。宇川直宏の映像=「バカ田大学」と称して五人の講師(大友良英、養老孟司など)が赤塚不二夫にちなんだ“講義”をしている映像を編集したもの、田名網敬一のド派手な絵、みうらじゅんの小品ながら意外な上手さに満ち満ちた絵、などが印象に残るが、特筆すべきものではない。
靴を脱いで二階に上がると、そこは生活スペースだったようでオーディオ、テレビ、プロジェクター、スクリーンが配された壁があって、台所のカウンターがある。そこに生前この部屋で撮影されたビデオが流され、写真がたくさん貼られていて、奥の部屋にネオンで光る墓標だったか位牌だったか、大きな“モニュメント”がゆっくり回転していた。
3階はもともと作品を発表した雑誌や単行本やキャラクターグッズなどを展示してあって、そこにお客様を迎え入れるスペースだったらしく、ガラスケースの中にさまざまなものがきちんと並べられてあった。よく見ると、アシスタントで関わった多くの漫画家たちから提供された原稿などが紛れ込んでいて、しんみりとした気分を誘っていた。別の部屋には赤塚不二夫の生原稿の展示もあった。
4階にも行って良い、というので、階段を登って部屋に入ってみると、窓のない部屋にプロジェクターからの光を浴びてミラーボールがくるくる周り、部屋の奥に反射した”模様”が動いていた。
なんでも、赤塚不二夫が瞑想をするために増築した部屋だそうで、完成後一度入って瞑想を試みたものの、つまらん! と出てきて2度と入ることはなかったらしい。
階段から転げ落ちないように気をつけて一階に降り、記念に絵葉書など、とショップを物色したが思ったものがなく何も買わずにそのまま帰ってきた。(2020年9月29日 東京にて)
2022年9月29日(木)~10月30日(日)の木、金、土、日曜(祝日含む)
【会場】 フジオプロ旧社屋 ⇣:東京都新宿区中落合1-3-15 ⇣
※建物2階より靴を脱いでの観覧となります。靴下着用でのご来場を推奨いたします。
【時間】 11:00~19:00
※1日4回(11:00〜、13:00〜、15:00〜、17:00〜)
※2h(最長滞在時間)の予約入れ替え制。
【休館日】 月、火、水曜 ※ただし10月10日(月)の祝日は開催。
【入場料】 500円(税込) ※小学生以下無料
【入場人数】 各回20名
詳細はHPまで
https://kowasunoda.com/
立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
藤村克裕 プロフィール
1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
内外の賞を数々受賞。
元京都芸術大学教授。
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