画材のトリビア
小杉弘明

小杉弘明氏による画材のトリビアコラムを連載します。

小杉弘明 プロフィール

1954年 大阪出身。

1977年 大阪府立大学 工学部応用化学科卒。

元ホルベイン工業株式会社 技術部長。

現カルチャーセンター講師。

「エマルジョンと言う勿れ ①」
2024-01-15
 いろいろなゼミを通じて感じた事だが、自分達作り手と使い手の間の認識の乖離がもっとも大きいのがアクリル絵具かもしれない。最近、自分の作品展に来てくれた人(もちろん絵を描く人である)に問われて愕然としたのは「ところでねえ、水彩とアクリルって何が違うんですか。どっちも水で溶いて描くじゃないですか。」という話だった。もちろん、ご本人も描いた後の耐水性の違いがある事くらいは認識されているようなのだが、そうなのか、その程度の理解なのかと驚いた次第である。

 まあ、油絵具といえば油が入っているなとか、水彩絵具といえば、何か水に溶ける水溶性の糊みたいなものが入っているのかなとか、その程度の認識はあるだろう。しかしアクリル絵具となると理解を超えるのはわからなくもない。主にアクリル酸系のポリマーを糊として使っている絵具だと言ったところで、真に理解できるのは有機化学を学んだ人のみであろう。一般的にアクリル絵具といえば、アクリル酸エステルのポリマーエマルションでできているものがほとんどだが、油性のアクリル樹脂絵具もあれば水溶性のアクリル樹脂を使ったものもあって、一般の人に理解せよという方が無理なのだ。・・・などというのは自分の説明能力の低さを露呈しているにすぎないかも・・・とりあえずアクリル絵具を理解してもらう試みとして、①ポリマーとは何か、②アクリル樹脂とは何か、③エマルションとは何かの3つの話に分けてみることにした。とはいえ、このコラムは何かの教科書ではないし、難しい話をする事を本旨としていないので、行きつ戻りつ、あちこちに飛び火することをお許し願いたい。今回はまず、ポリマーについての話である。タイトルの意味についてはあと少し、お待ちいただきたい。