画材のトリビア
小杉弘明

小杉弘明氏による画材のトリビアコラムを連載します。

小杉弘明 プロフィール

1954年 大阪出身。

1977年 大阪府立大学 工学部応用化学科卒。

元ホルベイン工業株式会社 技術部長。

現カルチャーセンター講師。

チューブ入り絵具が絵画にもたらしたもの(前編)
2023-04-28
永年、美術大学の1回生対象に材料学の講義を行ってきたが、いつも最初に「絵具とは何かを定義してちょうだい。」と問いかける。ほとんどの学生はそれまで、自分で絵具を作ったという経験が皆無なので、「・・・・」ということになる。まあ、それも無理はないだろう。ところが、たまに「絵を描くための道具でチューブに入っているもの。」という答えが返ってきたりする。これはなかなか面白い答えで、内心「しめしめ」と思っていたりする。

 「では、パンカラーやケーキカラーといった固形の絵具はチューブに入っていないが、これも絵具やろか。」とたたみかけると「それは例外です。」と返って来る。「なるほど! ではパステルは絵具だろうか、チョークは絵具だろうか。」とさらにたたみかけると、ついには「・・・・」となる。

 これらは絵具というものを最初から存在する・・つまり元からあるものとして認識しており、中身を問われているのに、それの収められている形態によって捉えようとするからである。答えは単純で、「色の粉(顔料)と接着剤の混ざったもの」ということになる。カラースプレーもパンカラーもチューブには入っていないが、紛れもなく絵具である。パステルは、(パステル+フィキサチフ)ならば絵具といえるだろう。ところで、中国で「顔料」と書いてあれば、それは「絵具」を指していたりするので、私の定義は多分に日本的なものなのかもしれない。