画材のトリビア
小杉弘明

小杉弘明氏による画材のトリビアコラムを連載します。

小杉弘明 プロフィール

1954年 大阪出身。

1977年 大阪府立大学 工学部応用化学科卒。

元ホルベイン工業株式会社 技術部長。

現カルチャーセンター講師。

絵具の価値を値段で測っていない?①
2024-07-22
 今回は絵具の値段と価値について考えてみたい。日本人は・・というか、日本人でなくとも、値段が高いことはその価値も高いと考えがちだが、実はそうでもないということを感じておられる人もいるだろう。亡くなって久しいが、永六輔氏がモノの価値について次のような事を言っていたのをテレビで聞いた記憶がある。「ものの価値は自分が決めるものであって、自分の価値基準より高ければ、デパートであっても値引してくれと言うし、価値が高ければ過分に支払っても良いと思う。」という内容であった。なかなかこう言い切れる日本人は少ないが、多少でも「自分においての価値」というものを見直してみるべきではないかと考えた。絵具においては、価値と値段は相関していないというのが、絵具を作ってきた側の人間の肌感覚である。

 たとえば、絵具はなぜ色ごとに値段が違うのか。特に、「専門家用絵具」という作家達が使用する絵具において色ごとに値段が著しく違うのはなぜか。カドミウムレッドやコバルトブルーという絵具はなぜあんなに高いのか。また、輸入絵具はとても高いが国産絵具と比べて中身が特別上等なのかという話である。絵具と言っても、油絵具、水彩絵具、アクリル絵具などそれぞれによって少し事情が異なるところがあるが、その辺のところも含めて述べたいと思う。

 基本的に絵具の価格差を生んでいるものの主な要因が何かといえば、
①有色顔料の価格、②顔料の吸油量、③体質顔料の種類と量、④絵具の比重になるだろう。




※顔料:水や油に溶けない色の粉のこと
※吸油量:簡単に言えば、顔料表面を包むのに要する油の量のこと
※体質顔料:顔料の中でも、糊と混ぜると透明になる顔料のことを体質顔料といい、色濃度の調整や流動特性の調整などに使われ、一般的に有色顔料に比較すると価格が低いので、増量剤としても使われる
※絵具の比重:絵具は容量売りなので、比重は重要なファクター…


 油絵具に使われるアマニ油やポピー油、水彩に使われるアラビアゴムは全てを輸入に頼っている。アクリル絵具に使われるアクリル樹脂は石油から作られており、これも絵具価格に為替の影響が出ているのは自明の事柄であるが、これは全ての色について共通するものであり、個々の絵具の価格差に関わるものではないので、今回の話からは除外する。今回は、価格に影響する要因の中でも大きな位置をしめる①と②の要因について話を展開する。