藤村克裕雑記帳
2016-12-12
  • 色の不思議あれこれ057
  • 「ラスコー展」に行って来た(1)
  • 東京国立科学博物館で開催中の特別展=「ラスコー展」を見た。見所満載、すごく面白かった。
     ラスコーの洞窟壁画について、改めて説明するまでもない。この展覧会のことはチラシで知った。
     学生だった時、ヨーロッパを一人で二ヶ月程貧乏旅行した。その時、ラスコーとかアルタミラとかに寄れないか、と真剣に考えた。それらは「原始美術」の超代表選手だから、行って見てみたい、と思うのは自然なことだろう。が、断念した。いかにも行きにくそうだったし、細かな情報を得るスベを知らなかったのだ。
     そのかわり、マドリッドの国立博物館にアルタミラのレプリカがあるというのを旅行案内書で知って、せめて気分だけでも、と、そこを訪れた。入り口が分からなくて長い時間ウロウロしたあげく、確かに実物大のレプリカはあったものの、“セメント感”丸出しのシロモノでがっかりした記憶がある。おまけに、薄暗いレプリカの中で座って眺めていると、監視のおじさんが、あーだのこーだの言いながらすり寄って来て、私のような者の体に“本格的に”触ろうとするのだった。なので、私はホーホーのテイで引き上げたのである。アルタミラのレプリカにはそういう思い出がある。
     ラスコーのレプリカではまさかそういうことは起こるまい、と思いつつも、いささか緊張しながら科学博物館に出かけたのである。
  •  まず入場してすぐびっくりさせられたのが、クロマニヨン人の親子を示した実に精巧な“人形”。同様の“人形”2体は別のコーナーでも展示されているが、いずれも一時代まえとは比べ物にならないくらいリアルだ。
     肌の半透明な感じがすごい。形状もシャープだし、つめや目など細部の表情も文句ない。毛皮の衣服を身につけ、靴をはき、髪、耳、首、腕、手首などに動物の牙やビーズ様の装身具をつけている。母が子に“化粧”を施している。    
     ビーズを繋ぐ糸はどうなっているか? と観察すれば、麻のような繊維を撚って作っていたりするのが見てとれる。あまりに上手に作ってあるので、感心して見入っていると、挙動不審と思われたか、監視のお嬢さんが私に注目しているのが分かるので、ほどほどにする。
     次にびっくりさせられたのは、洞窟の形状模型。実物の10分の1だという。蟻とかの巣に石膏とかを流し込んでその形状を捉えるようなことは誰かがやっていそうだけれど、ラスコーの場合はそんな乱暴なことはできない。精巧に測量して3Dのデータを得、それによって作られているらしい。洞窟は実際なら中に入り込んで様々な情報を捉える。その洞窟の形を外側から眺めるわけだ。薄い皮膜で形成されているのである。もちろん、内部を覗き込むこともできるし、内部に置かれている10分の1の寸法の“人型”によって洞窟内部の大きさを想像することもできる。できるが、本来露わにならない外側の形状がそこにある、ということが実に面白い。そして、形状自体が面白い。バリウムを飲んで撮る胃のエックス線写真とかが一番近い形状ではないだろうか。しばし、見入ってしまった。                                                             つづく→
  • [ 藤村克裕プロフィール ]
  • 1951年生まれ 帯広出身
  • 立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
  • 1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
  • 1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
  • 内外の賞を数々受賞。
  • 元京都芸術大学教授。
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