藤村克裕雑記帳
2020-05-22
  • 色の不思議あれこれ171
  • 東京ステーションギャラリー「神田日勝展」は開くだろうか
  •  コロナのせいで、“『宣言』の解除”をメドにしてなされるにちがいない美術館やギャラリーの“開場”をじっと待っている。
     あれも、これも、見たい展覧会はたくさんある。中でも“開場”が待ち遠しいのが東京ステーションギャラリーの「神田日勝展」だ。神田日勝という人は、私の生まれ育った北海道・十勝地方、その鹿追町の絵描きさんだ(だった)。だから、ある特別な思いがある。私は帯広市で発表される神田日勝の絵を見ながら育ったようなところがあったのだ。
     彼が32歳で亡くなったのは、1970年の夏の終わりのことだった。その年の春、高校を卒業して、夏のはじめに遅れて上京した私へ、高校の一年後輩だった尾野くんが、日勝さんが死んだ、と手紙で教えてくれた。こんなことってあるんだ‥‥、 と驚いた。(尾野くんへ返事を書いたかどうか、記憶がない。次の年、尾野くんも上京してきた。苦労しただろうな、彼も。)
     その秋の「独立展」を当時の東京都美術館に見に行った。「新人室」と表示されたスペースで、キャプションに黒いリボンがつけられた彼の“出品作”を見た。壁と床に新聞紙がびっしりと貼り込められた狭い部屋、セーター姿の裸足の男がひとり、生ゴミを前に膝を抱えて座り込んでいる、上から裸電球がぶら下がっている、そんな絵だった。やりきれない思いがした。
     あれから50年経ってしまった。
     あれから50年、と、そんなことを書いている(打ち込んでいる)自分が信じられない。
     信じられないけど、今、日勝さんの作品を見て何を思うか。ちょっと怖い。怖い、が、見たい。ゆっくり、じっくり見たい。見たい、が、怖い。何が怖い?
    コロナか? いいえ。
     
     さて、東京ステーションギャラリーは「神田日勝展」会期中に開くだろうか?
    開いてほしい、とそんなことを、ふ、と毎日考えている。
     (2020年5月21日、東京にて)



    ●東京ステーションギャラリー
    〒100-0005東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅丸の内北口改札前)
    tel. 03-3212-2485
    http://www.ejrcf.or.jp/gallery/index.asp


    *神田日勝 大地への筆触
    【会期】未定(開幕延期)~6月28日[日]
    【開館時間】10:00~18:00(金曜日10:00~20:00/入館は閉館30分前まで)
    【休館日】月曜日(5月4日、6月22日は開館)
    【主催】東京ステーションギャラリー[公益財団法人 東日本鉄道文化財団]
    【協賛】柳月(北海道・十勝)
    【特別協力】神田日勝記念美術館
    【企画協力】北海道新聞社、北海道立近代美術館
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  • [ 藤村克裕プロフィール ]
  • 1951年生まれ 帯広出身
  • 立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
  • 1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
  • 1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
  • 内外の賞を数々受賞。
  • 元京都芸術大学教授。
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