洞窟の壁をどう復元するのか、そこにどう絵を描いていったか、というレプリカの制作過程も映像で示され、画材やランプも展示されていた。映像では、絵の復元作業には女性が当っていたが、チョークで形の当りをつけ、線刻し、指、筆、息などで彩色していく。私は、線が彫り込まれていることを知らなかった。うかつなことだ。砂岩製のランプにはやはり線刻が施されていた。
そして、いよいよ、実物大のレプリカ。レプリカは5種類。いずれも実に見応えがある。特筆すべきは照明の工夫である。下方からの照明が時折暗転し、ブラックライトに変化する。変化すると、レプリカの線刻のところが蛍光するのだ。つまり、彫り込まれた線の様子が誰の目にもはっきりと見て取れるように工夫されているのである。線が光って闇の中に浮かんでいる。これには大変感心させられた。とはいえ、たとえば「黒い牝ウシ・ウマの列・謎の記号」などでは、蛍光する線刻が選択されているように思えた。すべての線刻が蛍光するのではなく、線刻によっては蛍光を省略された線刻もあるように私には見えたのである。省略する/しない、その根拠が示されていれば、さらにいろいろ感じ取ることもできたように思えたのでこのことは残念に思った。また、ランプの光のような“揺らめき”の再現がなされたら、さらにリアルだった違いない。
しばし見入ったのち、またびっくりしたのはオオツノジカの骨格の復元模型。でかい。そして、ものすごくりっぱな角だ。こんなにでかい動物を捕まえていたのか、と想像すると、もうそれだけで言葉を失ってしまう。この標本は東京科学博物館の所蔵とあったが、いままでまったく気がつかなかった。標本といえば、クロマニョン人の頭骨の標本もここの博物館所蔵とある。これも今まで全然気が付いていなかった。不覚。
他にも、各種の石器や骨骼器がその作り方も含めて展示されていたり、各種の素晴らしい“彫刻”や埋葬人骨のレプリカ、洞窟壁画の発見から今に至る研究の経緯なども手際よく示されており、とりわけ、1cmに満たない厚みの葉っぱの形状の大きな打製石器など、びっくり仰天。見事すぎる。
2万年の時空をこうしてやすやすと超えてしまえてよいものだろうか。
ふと気が付くと、入場してから3時間以上が過ぎてしまっていて、おなかペコペコであった。「ラスコー展」は、2017年2月19日まで開催中。
以前も「医は仁術」という印象深い展覧会を行なったように、科学博物館での展覧会はあなどれない、とじつに得した気分で帰路についた。
(2016年11月2日、東京にて)