今日の追悼上映では、その時太田氏から見せてもらったコイケさんの作品、『生態系-5-微動石』(8㎜/17分/1988年)が最初に上映された。8㎜フィルム作品を8㎜映写機で上映したのだが、今やそのこと自体が珍しいことになった。上映された『生態系-5-微動石』は随分記憶と違っていてびっくりした(30年以上経っちゃったんだからしょうがないけど)。冒頭の石の形状がわかるところなんかすっかり忘れていたし、終わりの方になって出てくる昆虫とかの生き物などの姿が登場したりして、おまけに画面の中央にもう一つの画面を作ってそれらもやはりコマドリされていたところなんか、覚えていなかった。掃除機の音はあらかじめそのように刷り込まれてしまったので、掃除機の音にしか聞こえなかった(悲しい)。
また、休憩時間に見た『小池照男全仕事』という冊子で、コイケさんの実際の作り方が私の想像とは全く違っていたことを知って、心底たまげた。コイケさんは一枚一枚必要な写真を撮ってそれを紙焼きにし、その紙焼きをたくさん(2万枚以上)用意して、それを一コマずつ8㎜カメラで撮影した、というのである。『生態系-5-微動石」の場合、写真撮影に半年、写真を一枚に一コマずつ8㎜カメラで撮影するのに四ヶ月、編集に三ヶ月が必要だった、というので腰が抜けた。8㎜の場合、一秒間に24コマが必要である。一分間に1,440コマ。そして、17分間の作品なので、24,480コマ。つまり写真も24,480枚必要だ、という単純計算になる。フィルム代、現像代、紙焼き代、、、おお、ベラボーではないか! しかも撮影・現像後、編集するというのである。なるほど。
会場に太田氏が来ていたので、休み時間に、「最初に上映された作品は昔見せてくれた作品だよね」と聞いてみた。
太田氏は、「あの時は16㎜フィルムに置き換えたのをみてもらったんだよ。コイケさんは8㎜でしか作らなかったから、今日のとはちょっと違うんだよね。音質も今日の方が遥かに良かったよね」と言った。私は、へえ、そうなんだ、と思った。
で、肝心の作品群であるが、とっても面白かった。何が写ってるか分からないのには訳がある。一秒間の24分の1の時間に当たるフィルムの一コマに写っているものは、そもそも映し出される時間が短かすぎて何が映し出されているか分からない。それからコイケさんはテクスチャー最優先というか、被写体の形状が分からないようにフレーム全体にテクスチャーが広がる状態の写真をもとにしている。だから、もとになっている写真を見ても何を撮ったかを判別するのは難しいのである。そういう写真の一枚一枚を一コマ一コマに撮影していくのである。そんなわけで何が写っているのか分からなくなる。
分からないが、前後のコマどうしが連動して“動き”が現れる。その時に“残像”という目の働きが大きな役割を果たすことは言うまでもないが、ともかく、“動き”が現れるだけでなく、それまでこの世のどこにもなかった“テクスチャー”も現れる。思いがけない動きやテクスチャーが現出し、そしてさらにそれが次々に移り変わっていく。とっても面白い。名状し難い動きがまるでレイヤー処理したように重なって現れたりすると、コマドリゆえの醍醐味というか、コマドリでなければ作り出せない面白さだと思って感動した。
コイケさんは、三ヶ月もの間、編集をしていた、というのだが、一体何を、どう統御するために、どんな編集をするというのか? そこが知りたい。確かに、映写画面の中央にもう一つ別な画面が挿入されたりしていたのだが、そういう事柄のことだけではあるまい。やはり、何かしらのセオリーというか、序破急、とか、起承転結、とかいうものがあるのだろうか? あるような気がするのだが、よくは分からなかった。
この日上映されたのは、他に『生態系-6-菌糸類』(1989年)、『生態系-7-堆積熱』(1990年)、『生態系-8-連鎖蝕』(1991年)、『生態系-9-流沙蝕』(1993年)、『生態系-10-蘚苔瀝』、『生態系-14-留』(2004年)、『輻射点』(2005年)、『生態系-15-秤動』(2006年)、『生態系-16-ジオイド』(2009年)。計167分。
フジツボらしきものが登場する『生態系-14-留』や海が登場する『輻射点』が私は気に入ったが、シンメトリーのコマが多用されていた『生態系-16-ジオイド』は、そのシンメトリーがかえって気になって集中が妨げられたような気がした。デジタルに切り替えて苦労も多かったようだが、制作費が格段に安く済むようになって自由度が増したようである。 上映後、水由章氏の司会で、佐々木健正、黒坂圭太、とちぎあきら各氏のトークと万城目純氏のダンスもあって充実の半日間であった。
すごい人がいるものである。亡くなったのが実に惜しまれる。
19日(日)午後にも別のプログラムが用意されており、今からとても楽しみである。これを読んでくださっている方々にもおすすめしたい。
(2023年3月13日、東京にて)
小池照男映像作品アーカイブプロジェクト
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『小池照男のコスモロジー』 小池照男 追悼 映画作品上映会 東京上映2日目 案内
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