観客の私はものすごい速度でこれらの現れの変化を捉えることを促されているうえに、ゆっくりした動きを支え続ける泯さんのからだ各所の微細で複雑すぎる運動を同時に絶えず感じさせられている。
泯さんが「プール」のほぼ中央に“二足歩行”で進んできて、後ろへと向きをかえ、両腕を上方にかざしながら一歩、二歩と動くと、足元にできる大きな波紋からの反射が実に不思議な形状のひとまとまりの光の揺らめきを壁上に一瞬作り出す。それは光を全て飲み込むがゆえに現れ出る「黒」という色の中から、もう一度生まれ出た光、そう、まるで“太陽”のようだ。その大きく揺らめく壁上の光に向かって、泯さんの腕の影が伸びようとしている。壁上でのこの名状しがたいドラマは、しかし、持続することなく消え去っていき、泯さんは、さらに歩を進め、次には優しく座り、まさに母性そのものの姿になったように静かに変身している・・・。
踊りが終わった時、観客は拍手を忘れていた。張り詰めて圧倒されていた。原口さんと泯さん、互いが互いを知り尽くし、信頼しあっていて、しかも互いがPlan-Bの空間を知り尽くしているがゆえに成り立った稀有な出来事だった。
後日、原口さんの「オイルプール」をもう一度見に行った。あの出来事をも飲み込んでしまったかのような“絶対水平面”を確認してきた。じっと見入っていた若い女性の姿があった。
原口さんは、世田谷区中町2−17–23「Space 23℃」にても個展開催中。5月6日まで(ただし、金、土、日のみ)。Plan-Bでの「オイルプール」の展示は5月5日まで。
2018年4月30日、東京にて
公式HP:
https://www.space23c.com/