今回の日勝展は、日勝の懸命な歩みを示しながら、同時に日勝が孤立した「農民画家」などではなかったことを多面的に明らかにしている。素晴らしい。最新の研究成果が惜しげもなく注がれている。
例えば、スクラップブック。若い日勝が、どんな作品に興味を持ち、繰り返し眺めて参考にしていたか、その一端が明らかになった。図録では、スクラップブックのすべてを見開きの状態の写真図版に編集して紹介している。素晴らしい。スクラップブックは会場でも現物が展示されており、絵葉書や印刷物からの写真図版が貼り込まれている様子が観察できる。
また、スケッチブック(それは、ありふれたノートブックであった)。あるページには労働用の革の靴が鉛筆の線だけで描出されている。とても巧みなスケッチである。そのスケッチは例えば『ゴミ箱』(1961年)や『人』(1962年)の中に登場している。
『集う』(1965年)についての展示も素晴らしい。初めて知ったこの絵について、写真や習作の前で様々なことを考えた。
一明、曺良奎、寺島春雄、海老原喜之助、北川民次、海老原瑛の作品の現物が展示されているのも日勝を捉え返すための大きなヒントを与えてくれている。
図録がまた素晴らしい。神田日勝ファンには必携の充実した内容である。
ミュージアムショップでは『神田日勝作品集成』も販売されている。これは鬼に金棒の有料プレゼントだ。みなさんも「鬼」になってこの「金棒」を振り回して欲しい。“桃太郎”もなんのその。こういうレゾネをきちんとまとめるという“地味な仕事”をきちんとしている神田日勝記念美術館は素晴らしい。
そんなこんなで、ああ、また行きたい。
(2020年6月8日、東京にて)
上:「死馬」1965年
下:「ブーツ」スケッチ1961年・「部分」油彩
以上すべて図版は「神田日勝展」画集より
●神田日勝展
会期:6月2日(火) - 6月28日(日)
※入館チケットはローソンチケット(Lコード30066)販売のみ。
受付では購入できません。
会場:東京ステーションギャラリー
公式HP:
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202004_kandanissho.html