明日は雨の予報なので、行きたいところには今日行ってしまおう、と家人と念のために調べてみたら、そこは、あいにく月曜日はお休みだった。なので、地下鉄・丸ノ内線、中野坂上駅から地上に顔を出し、体も出して、山手通りに沿って坂を下り、東京工芸大学芸術学部の「写大ギャラリー」に行った。「森山大道 衝撃的、たわむれ」という展示の見物。
とても面白かった。
新年度を迎えてはいるが、大学もまだコロナで大変だろう。新入生歓迎の催しを兼ねて、美大を始めギャラリーのある大学はどこも展示に趣向を凝らしている(はずだ)。東京工芸大学芸術学部もまた気合の入った企画である。展示構成のご担当は同大教授小林紀晴氏。
森山大道氏について、改めて説明する必要はあるまい。同氏のヴィンテージプリント900点余だったかを所蔵するこの大学の、余裕さえ感じさせる贅沢な展示である。面白くないはずはなく、まんまと(?)実に面白かった。
森山氏が暗室の人であることはすでに知られているが、そのことをまざまざと(?)示す展示である。同じネガから、多様な表情のプリントが生まれてくる暗室作業、その現場感覚のようなものが見事に伝わってくる。しかも、同一のネガから、こんなに違う表情のプリントができるんだよ、というかのようにプリント同士を並べて比較して教育的に見せるのではなく、あえて別のプリントを多数挟んで、物理的に距離をとって展示してあり、挟まった側の「別のプリント」も同じように距離を置いて“反復”して展示しているがゆえに、ある事件性を帯び、“森山世界”に取り込まれ、迷路に迷い込んでしまったような錯覚さえ覚えてくる。このように展示を構成した小林氏の確かな力量(当たり前だが)も同時に重なって見えてくるので、展示された一枚一枚のプリントの見え方はさらに複雑になっている。一度見たくらいではダメだ。だから、会場を二度三度と自然に巡ってしまっている自分に気づかされるのである。後ろを見ては確かめ、横を見ては同じネガフィルムからの変容具合を確かめたりしながら、堪能ということをしてしまった。
被写体も面白い。旅役者などはもちろん、看板や新聞写真、ポスターのような、すでに写真図像として巷に流布しているものも、テカリや継ぎ目などの“ノイズ”すら取り込んで撮影している。そのネガを暗室でトリミングしたり、焼き込みを変えたり、場合によってはネガをひっくり返して「裏焼き」したりさえもするのである。そこに現れ出てくる広告や商品のイメージの反復は、ウォーホルなど、ポップアートの手際をどうしたって連想させるが、しかし、反復自体のことも当然含んで、どれも「森山大道」になっているのが見所だろう。
では、なぜ、私たちはどの展示作品も「森山大道」として受け止めうるのか? 粒子の荒さ、形状のキワの曖昧さ、コントラストの強さなどで、独特なテクスチャーが生み出されている、といった要素は指摘できるだろうが、やはり結局は、曰く言い難く、あえて踏み込んで言葉を探そうとしても、うーん、あぶない感じ、とでも言うのか、結局はそういう曖昧さにとどまらざるを得ない。というか、筆者の表現力の貧しさが露呈するばかりである。
ともかく面白い。ぜひご覧になられると良い。
帰路、スマホを取り出して、思わず「森山大道ごっこ」を始めてみるが、そう簡単に“憑依”できるものではないのだった。ま、「ごっこ遊び」を誘発するほどのインパクトがあった写真群だった、という次第である。
(2021年4月12日、東京にて)
森山大道 写真展「衝撃的、たわむれ」
写大ギャラリー森山大道アーカイヴより
●会期:2021年3月22日(月) ~ 2021年5月31日(月)
〒164-8678 中野区本町2-4-7 5号館(芸術情報館)2F
日曜日・祝日休館
●会場:写大ギャラリー
(月〜金)10:00 ~ 18:00 (土)10:00〜17:00
●公式HP
http://www.shadai.t-kougei.ac.jp/access.html