藤村克裕雑記帳
2022-04-01
  • 色の不思議あれこれ216
  • ▸「ロニ・ホーン展」にも滑り込んだ  2
  •  下の階の会場に移動すると、大きな部屋に実に大きなドローインが並んでいた。その大きさがまず圧倒してくる。表れ出ている形状は無数に切断されていて、ズレがあるが、同時に一つのまとまりを感じさせる。おそらくは、手法を統一した同じような試みのドローイングが複数あって、それを直線状にカットして相互に入れ替え固定して作ったものだろう。自然に元のドローイングの復元を想像し、カットの仕方に何か法則のようなものがあるだろうか、と探りを入れることになる。近くに寄ってみると、多くの書き込みが散在し、また、仮留めのためだろうか、ピンを刺した穴の跡があったり、位置を示す目印があったりするのが分かる。大変な手間をかけてできたシリーズだろうが、上の階で見た小ぶりのドローイングの手間とそう違いがないようにも見える。ともかく大きい。大きいのでその分作るのは大変になりそうである。制作途上の色々な場面を想像してみるが、線で描いた形状を撹乱しているということ以上の意図を見出すことができない。消化不良である。

     次の部屋には、水彩を用いて描いた複数のドローイングを切り刻んで再構成した作品が並んでいた。なぜか、過日東京で見たクリスチャン・マークレイのコラージュ作品を想起してしまう。

     次の部屋(最後の部屋)には、アイスランドの温泉で、首だけ出したカメラ目線の同じモデルを、ほぼ同じ構図で撮り続けて、それで構成した写真作品が、ほぼ目の高さに横一線に並んでいた。ロニ・ホーンの代表作と言っていいだろう。この作品は、ずいぶん前に竹橋の近代美術館のドイツの現代写真を紹介した展覧会で見た記憶がある。5〜6点ごとに少し間隔を置いて、グループ分けしてある。そのことで、同じ写真が並んでいるようだが、どれも状況が違っている、ということが見えやすくなっており、長期に渡って撮影したことが分かってくる。その結果、全く知らない女性の僅かな表情の変化や髪の様子の違いなどが見えてきて、ある種親しみが生じてきて、会場の照明で生じる写真パネルが壁に落とす影と写真の画像との妙な照応すら見えてきて、実に不思議な気分になってくる。
     この作品を見終わって、なるほど、上の会場入り口に2枚の同じ(ような)フクロウの剥製の写真があったことの意味も、モノクロの波の写真(の印刷物?)があったことの意味も、分かってくるような気がしたのだった。
     同じ写真は本当に同じものか? 同じ写真に見えて実は違っているのではないのではないか? というような“謎かけ”。そのためには最低でも2枚の写真を必要とするだろう。
     また、ロニ・ホーンにとってアイルランドという場所が特別な場所であることの表明も(アイルランドは地球の割れ目が露呈している場所だから誰にとっても特別な場所だろうが)。
     厄介な問いかけと、ある種の抒情性とが同居している。

     庭の大きな白いガラスの作品を見物して美術館を出た。
     とても遠いところに長い旅をしたような気がした。
    (2022年3月30日)
  • 「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」

    Roni Horn: When You See Your Reflection in Water, Do You Recognize the Water in You?

    会期:2021年9月18日(土) ~ 2022年3月30日(水) 会期中無休

    会場:ポーラ美術館 展示室1, 2 遊歩道

    主催:公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館

    後援:アメリカ大使館

    こちらの展示はすでに終了しています。

    公式HP
    https://www.polamuseum.or.jp/sp/roni-horn/
  • [ 藤村克裕プロフィール ]
  • 1951年生まれ 帯広出身
  • 立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
  • 1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
  • 1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
  • 内外の賞を数々受賞。
  • 元京都芸術大学教授。
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