藤村克裕雑記帳
2019-12-18
  • 色の不思議あれこれ157
  • 「ダムタイプ」展 その2
  •  古橋悌二の遺作という「LOVERS」は、黒いマットな壁に囲まれた部屋の中央の骨組みに無駄なく縦に設置された2台のスライド映写機と5台のビデオプロジェクターから壁へと、極細の縦線や等身大よりやや大きい数名の全裸の男女の映像とが投映される。床面の位置がほぼ共有されるようにされた映像なので、場に統一感が自然に生じている。それら男女の映像は、適度なスローモーションに処理されて、ある時は歩き、ある時は走り、ある時は止まって前を向き、あるときは止まって後ろを向く。横方向での移動を捉えた映像では、はじめわずかに体躯の前面が見え→側面だけが見え→わずかに背面が見える、というように一点に固定して撮影したカメラの位置を強調している。部屋のプロジェクターの位置と撮影時のカメラの位置が同じになるようにしてあるのかもしれない。二つ像が重なるときはそのまま像が重なって前後の関係は生じない。止まって立った人物像は両方の腕を横に大きく広げ、やがて何か(誰か)を抱きとめるようにして止まる。そこに別の人物像がすれ違ったりすることもあれば、重なることもあり、仰向けに倒れて奈落の底へと消えて行くこともある。そうした映像に、二台のスライドプロジェクターから、一本ずつの極細の白い垂直線がそれぞれ横方向に移動していく。壁上の情報をスキャンしているかのようだ。このように黒い壁に投影される映像には、鑑賞者の体の影がさらに映り込んで映像を遮る。エイズによって35歳で亡くなったという古橋悌二の、ある意味では素朴すぎるくらいの、真っ直ぐな、そういう遺作だ。それにしても、黒い壁に人物像があれほど明瞭に投映される仕組みが私には分からない。黒は光を吸収するから黒なのではなかったか? そこになぜ肌の色が写り込むのだろうか? 私は思わずプロジェクターの前に手をかざしてみた。手の影ができてそこの像は欠けた。ということはプロジェクターからの映像以外の要素はないのだった。実に不思議。いいけど。
     
    「MEMORANDAM OR VOYAGE」は、素晴らしい。横長の巨大なモニタ(会場で配布していたリストには「4K VIEWING(自発光型 超高精細大型ビジョン)」とある。そのモニタに、鮮明すぎるほどの映像が目まぐるしく現出していく。映像自体が大きくて鮮明で、見飽きることがない。断続的に発せられる音、アルファベットによる文字情報も巧みに動員されている。ここにも水平方向に伸びる細線が垂直方向に移動する。
     2020年代にさしかかろうとしている今、1980年代終わりから90年代半ばくらいの状況ともさらに違って、デジタル世界は信じられない速度で日常生活の中に入り込んでいる。AIの話題も頻出している。そんな状況で、今見ても、ダムタイプがカッコいいのはなぜか? 
     おそらく、絶えず更新され続ける各種電子機器や装置、それを扱う技術、これらを積極的に取り込みつつ、今なお改変を繰り返し続けている、ということではないか(なので、かつてのダムタイプの記録映像が、ブラウン管のモニタで示されていたのは興味深かった)。
     今回の展示においても、アナログとデジタルの垣根をもちろん軽々と行き来し、映像、音響、ダンス、インスタレーション、などの領域も行き来し、混交させて、ダムタイプという“テイスト”を惜しみなく提供している。確かに稀有な集団ではある。個々の活動にも目が離せない。
     と書いたところで、アンナ・カリーナが亡くなったという情報を得た。79歳だったというので、びっくりした。
    (2019年12月17日、東京にて)
  • 画像:上Dumb Type《LOVE/SEX/DEATH/MONEY/LIFE》 ©Centre Pompidou-Metz / Photo Jacqueline Trichard / 2018 / Exposition Dumb Type

    下:Dumb Type《MEMORANDUM OR VOYAGE》 Photo: Shizune Shiigi


    ●会期:2019年11月16日(土)~2020年2月16日(日)
    ●会場:東京都現代美術館 企画展示室 1 F
    ●休館日:月曜日(2020年1月13 日は開館)、2019 年12月28日-2020年1月1日、1 月14 日

    ●開館日:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
    ●観覧料:一般1,400 円(1,120円)/ 大学生・専門学校生・65 歳以上1,000 円(800円)/中高生500 円(400円)/ 小学生以下無料
    ※( )内は20 名様以上の団体料金 

    公式HP:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/dumb-type-actions-reflections/



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  • [ 藤村克裕プロフィール ]
  • 1951年生まれ 帯広出身
  • 立体作家、元京都芸術大学教授の藤村克裕先生のアートについてのコラムです。
  • 1977年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
  • 1979年 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
  • 内外の賞を数々受賞。
  • 元京都芸術大学教授。
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