おぼつかない知識で恐縮ながら、江戸時代まで日本には木綿がなかったのではなかったか。主として麻布、それからシナやイラクサなどから作られた布を用いていたはずだ。東北は寒くて綿が育たず、明治になってもなかなか木綿布が行き渡らなかった、と誰かから聞かされたように思う。絹は東北南部では江戸時代から生産されていたようだが、晴れ着など特別なものに用途が限られていたし、羊毛などもまた明治以降のものだったはずだ。いずれにせよ、これらはつい最近までずっと、女たちの手によって繊維から糸にされ、織られて布にされた。そして針仕事。身に纏えるようになるまで、大変な手間を要したわけだ。それが、いつの間にか「大量生産・大量消費」の世の中だ。大事なことを忘れ去ってしまっている。そういうことを感じさせてくれる。
展示されていたのは、着物や反物はもちろん、おくるみ、雑巾、手作りの足袋、手甲、ねじりごんぶくろ(西日本からの古着の木綿の布を斜めに接いでバイヤスを効かせた鮮やかな色調の袋。嫁入りや葬式で使う)、花刺しの雛形、マヤテ(野良で使う前垂れ)、かまばたおり(裂織のこと)、うづしき(盂蘭盆で仏壇前に野菜などの供物をのせる敷物)など。そして、祭りや芸能で用いられる装束や、紫根染に関する資料、ホームスパンのスーツなど。いずれも、しみじみとした感興とともに見た。
また、学芸員資格を取得するためのコースに所属する学生たちが描いたデッサン(今回展示されていた品物に類するものを描いたデッサン)がとてもひたむきで好ましく感じた。3月13日まで。
(2016年3月4日、東京にて)