太い筆で乗せたほぼ一分節の筆触の重なりや連なり。これが画面に作り出している心地よいリズム。手際も良すぎるくらいで無駄がほとんどない。ちょっと驚かされる。この“画風”が検挙されるまで安定的に続く(検挙後も時々顔を覗かせるが、深入りしない)。
それが一変するのは検挙後に描かれた海の絵。絵の作り方を根本的に変化させている。そうでもしなければ“擬態”できなかったのかも。油絵のオーソドックスな技法=重層の技法で描かれた海の絵は、最上層のビリジアンの透層の効果を最大限に引き出している。大変な力量である。これら海の絵は、一種の「戦争画」と言えるのだろうが、「戦争」を真正面から描くことを避けて“擬態”している。福沢一郎は、こういう対応ができる人だったわけだ。というか、こういう対応でもしなければ、描き続けられなかった=生き続けられなかったのかもしれない。
戦後の絵も、え? こんなに良かったか? というくらい見応えがあった。1930年代のピカソの絵からの影響がそこかしこに見出せる時期もあるが、その時期でさえこなれている。というか、巧みに自分のスタイルにしている。驚くほど器用だ。
アクリル絵の具を使うようになって、色彩に鮮やかさが増す。ダンテ『神曲』や源信『往生要集』などを手掛かりに描いているが、ある種、使命感のようなものを抱き続けていた人のように見えた。
もう一度じっくり見たいが、会期終了間近。果たせるかどうか。
(2019年5月17日 東京)
会期:2019/3/12~5/26
開催時間:10時~17時(金・土は20時まで)
会場:東京都国立近代美術館
公式HP:
https://www.momat.go.jp/am/exhibition/fukuzawa/