が、残念ながら、どんなふうに素晴らしいかを文にできる力が私にはない。例えばあの有名な「コリウールのフランス窓」(1914年)の“夜の色”の下層には柵や何やら建物のようなものが描かれていたことが見て取れるが、それは実物を前にしてやっと発見できることだったりする。昔、図版で見てびっくり仰天したこの絵は、ただ窓から見える「夜」という名の「面色」を黒い絵の具という「表面色」で扱っただけの作品ではないのだった。ここにある黒は単純な黒ではなかった。また、「コリウールのフランス窓」はもちろん、「金魚鉢のある室内」(1914年)や「アトリエの画家」(1916ー1917年)、「窓辺のヴァイオリン奏者」(1918年)では垂直の形状が単純に垂直ではなく、繰り返し吟味されていることが伝わってくる。やはり、絵、なのである。それにしてもマチスという人は実に過激な人だ。
フラフラになりながらエスカレータで一階会場に進んで行くと、ここもまたすごいことになっていたので、さらにフラフラになった。一つ書いておくと、「座る薔薇色の裸婦」(1935ー1936年)という実に不思議な絵のことである。この絵は下層に別の絵があったことが見て取れるが、多くが掻き取られ不思議な色合いを現出させながら、幾何学的な線が僅かに、しかし決然と施されて完成している。解説文によると、制作途上の13段階の様子を写真撮影してあるそうだ。なぜ、それらの写真資料が示されないのか? せめて図録に収録してあるなら、どれほど理解が深まっただろう。
2階会場ではヴァンスの教会を軸にした展示。売店、出口。
パリのポンピドゥー・センター所蔵のマチスを主に、国内の美術館所蔵の数展を加えて構成した展覧会である。それぞれの時代の代表作と言ってよい作品が並んでいる。ポンピドゥー・センターを訪れたとしても、特別な機会以外にはこうしてこれだけの数のマチスをまとめて見ることはできない。ぜひご覧になられるとよい。私はまた行きたい。
昼前に入場できて、ヘトヘトになって外に出て駅に向けて歩き始めたら雲行きが怪しくなっていた。お腹がすいてペコペコだったので、文化会館のカフェでいかにも人を馬鹿にしたような呆れた軽食を食べた。お腹がすいたらなんでも食べちゃうぞ、というわけであった。外に出たら今度は雨がパラパラ降り出した。拙宅の最寄駅に着いたら、あれま、土砂降りだった。TVは当てにならない、雷が大暴れしていた。隣の工事は雨で中断していた。
(2023年5月11日、東京にて)
「マティス展」
・会期:2023年4月27日(木)~ 8月20日(日)
・休室日:月曜日、7月18日(火) ※ただし、5月1日(月)、 7月17日(月・祝)、 8月14日(月)は開室
・開室時間:9:30~17:30、 金曜日は20:00まで ※入室は閉室の30分前まで
・会場:東京都美術館 企画展示室
・一般:2,200円
・大学生・専門学校生:1,300円
・65歳以上:1,500円
・主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、 ポンピドゥー・センター、 朝日新聞社、NHK、 NHKプロモーション
・後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
公式HP:
https://matisse2023.exhibit.jp/
画像:『コリウールのフランス窓』 作者:アンリ・マティス 1914年作
油彩・カンヴァス116.5cm×89cm
パリ国立近代美術館(フランス・パリ)蔵